【壁画】岡崎市の壁にスプレーアートしたら凄い作品誕生…!! ページ24
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『Aと！』
街中で声を張り上げると、周りの人々がなんだなんだと振り返った。
今回、私は「チームとは」チーム、つまり1人で壁画を書かせられることになってしまっている。
おまけに入りは編集で合わせるから、挨拶も1人でやれと言われてしまったのだ。
なんたる非道。
『ということでね、はい。今から1枚、仕上げていこうと思います』
沿道の視聴者さんにお辞儀をして、私は脚立をヨロヨロと引っ張る。
『あ、大丈夫です。1人でやれます』
ラフはだいたい考えてきた。デフォルメしたメンバーが、超巨大怪獣になったピースの二乗くんに追われている構図だ。
正直、3時間やそこらで終わりそうもないので、適当に視聴者さんに声をかけて、色塗りだけ手伝ってもらう。
『ありがとう。助かりました』
何度、このセリフを繰り返したか分からない。
ふと気がつくと、遠くの方から騒がしい3人組が近づいてきていた。
と「うわ！やっぱお前、凄いな！！」
としみつを筆頭に、ゆめまるも虫さんも口々に凄い凄いと褒めてくれる。
『ありがと。3人は終わったの？』
虫「当たり前でしょ」
『早いねぇ。ごめんね、ちょっと待ってて』
ペースを上げつつ、寄ってきていた大学生カップルに声をかけるのも忘れない。
『ごめんね？今、もし時間あるなら、ここのビル街塗っていかない？』
と「うわ、手伝わせてんの？」
『1人なんだもん……ホントごめんね。ありがとう』
彼氏の方の手つきが大雑把で気になるものの、グッと本音を飲み込んだ。
もう嚥下にも慣れたものだ。
てつやと喧嘩したあの日以来、私はずっと私を押さえ込んでいる。
そうやって生きてみて、初めて気がついた。
自分を偽ることの気楽さに。
人との衝突が減った。
ほとんど泣くこともなくなった。
人から優しいと言われるようになった。
素直に生きてしまったから、私はてつやを困らせたけれど、それをやめた今、彼とは少しの言い争いもない。
呆れられることも随分減った。
苦笑されることもほとんど無くなった。
ああ、こんなに生きやすいんだ。世の中ってのは。
『うん、まぁ大方完成かな？』
出来上がった壁画は、いつもの私の作品に比べると随分と落ち着いたものだ。
在り来りなデザインと、配色。
これでいいのかと心の片隅で誰かが問う。
ゆ「おっ、完成？」
虫「いいじゃん！めちゃくちゃオシャレ」
『ありがとう』
お礼を言いながら、私はまたその誰かを飲み込んだ。
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作者名：蚕虫 | 作成日時：2022年6月17日 1時
