【wrwrd!】出逢いを花束に代えて Ⅰ (ページ2)

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彼女が本当は誰だか、薄々気がついている癖に。其れは、現実的に考えて絶対に有り得ないこと。夢物語。幻想。御伽噺。......だけれど。......あの子猫を拾ってから次々と起こった、魔法の様な出来事を受けてから。俺の中の常識は、此国の、此世界の常識は。意図も簡単に崩されようとしていた。

誰や？

其れは、確信を持ちたかったが為に出てきた言葉なのか。それとも、信じたくなかったから吐いてしまった言葉なのか。どれも違う。......自分は此少女に、そうであって欲しいと。......期待していたのだろう。
そして、彼女は口をゆっくりと開き、言葉を紡ぎ始める。薄桃色の唇はふっくらと。桜の花びらの様に艶やかで、麗しい。
彼女の聲が、俺の耳に入る。

「A。貴方に拾われた子猫よ。」

「......！」

少女の口から紡がれた名前。其れは、自分が二月程前に拾った子猫に名付けた名前と。其れから俺に様々な興味深い現象を見せてくれた子猫の名前と。今さっき迄俺の隣で優雅に毛並みを整えていた子猫の名前と。

同じだった。

あの日は珍しく気まぐれで。昔、本当に昔勤めていた協会に行って。その帰り、傷だらけで倒れていた子猫を見つけた。......傷の原因だった悪ガキを諭した後、子猫の手当をして。本当は、自然に帰そうと思ったけど。野良猫とは思えない程、綺麗な瞳をしていたのと。......すっかり懐かれてしまったのと。だから俺は、その子をこっそり拾って。仲間に内緒で、自室で飼い始めた。もう廃墟と化したあの協会で、神前で彼女の名前を決めた時。『彼女』で在る分かった途端、何処に居るか、生きているかも分からない、会ったことも無い、存在すら確証の無い......姉の名前が浮かんで。其の姉の名前、薄ら覚えていた、俺の中の彼女の記憶から......名前を、借りて。......『A』と名付けた小さな小さな茶髪の子猫。沢山沢山、可愛がった。動物を飼うのは初めてだったから。だから、応えてくれたのか、彼女は。......目の前の少女は、子猫の時と変わらぬ......否、もっと愛くるしい顔で、俺の方を見て、微笑みを浮かべているではないか。
彼女の表情のひとつひとつが、俺の胸を、心を撃つ。彼女と目が合う度、顔が赤く染っていくのが容易に分かる。あぁ、本当の恋って、こんな物なんや。こんな時に、其れが分かるなんて。