カランコエの花言葉 壱【我妻善逸】

十六話 ページ20

【善逸】


黒で塗りつぶされたような真っ暗な夢の世界。









ずっと自分には何もできない、成し遂げられないと思っていた。


実際のところ本当にそうで、すぐに逃げるし泣くし。











真っ暗な地面に座り込んで頭を抱える。
そこら中で俺を嘲笑う声と不快な音が聞こえる。









真っ暗な世界が怖くて、助けてほしくて手を伸ばす。




だけど、周りにいた人たちは皆 俺から離れていった。





善「待って！！」





俺はその中の一人の腕を掴んだ。
その子は俺の方を振り向くと、ふわりと笑った。








真っ黒の世界が揺らいで、光が差し込んできた。









…あの日、君は笑顔で俺に言ったんだ。



『善逸くんが私をここまで運んでくれたんだよね？ ありがとう』

・

・

・


たったそれだけの言葉だった。
たったそれだけでも、俺は嬉しかった。








誰かの心からの笑顔で、ありがとうと言われたのは初めてだったから。




初めてのありがとうは、温かくて照れくさくて、なんだか擽ったい感じがした。









…ああ、夢の中にいても君の優しい音が聞こえてくるよ。









彼女には幸せでいてほしい。
だから、俺はこの気持ちを閉じ込めておくことに決めた。





伝えてしまったら、きっと、彼女を困らせてしまうから。









彼女の恋を応援しよう。









失恋しても、彼女を好きになったことを後悔したり無かったことにしようと思わないのは、



きっと、



彼女に全てを包み込むような優しさがあるから。









夢の中で俺は目を閉じ、眠りにつく。









…もう彼を嘲笑う声は聞こえない。

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