曖昧であまい 2【ブルーロック】

合鍵【潔世一】 ページ3

「はい、これ」

彼に手渡されたのは私の家の合鍵だ。
そこには以前可愛くないからとあげたブサイクなマスコットがぶら下がっている。

「‥返さなくてもいいのに」

「そういうわけにはいかないよ」

彼は困ったように眉を下げた。


もういらないって正直に言えばいいのに。合鍵も。私も。

使わないものなんて邪魔だから持たない。合理的な彼はいつもそう。

彼が買ってくれたネックレスのチェーンが壊れても取ってある私に、彼が「Aらしいな」と笑った日を思い出した。


玄関を開けて、くたびれたシューズがあって、「おかえり」「ただいま」を言い合うことがもうないのかと思うと心がざわついた。

この家には、彼との思い出が多すぎる。

洗面台の歯ブラシ、男物の洗顔。
「勝手に捨てといて」と彼は言ったが、どうせ私はなかなか捨てれなくて、目に入るたびに彼のことを思い出したりするんだろう。

目障りだから彼が全部持っていってくれたら良かったのに。

こんなにも一緒にいたのに、彼は私のことを全然分かっていない。はなから分かる気なんてなかったのかもしれない。


何気ない気持ちであげたこの鍵が、今はこんなにも憎い。


彼はボストンバック一つに収まるだけの荷物を肩に掛けた。

「最後にもう一度だけ抱いて」そう言おうとして口を噤んだ。めんどくさい女にはならない。優しい彼はきっと困るから。



「じゃあ、元気で」

「うん、元気で」

引き止める言葉ももうない。
玄関が閉まる音がした。

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