曖昧であまい【ブルーロック】短編集

朝帰り【國神錬介】 ページ26

朝日が眩しくて目を細める。
眠気が一周回って目がバキバキだ。

駅から家までの道にはサッカー場があり、そこを通ると力強いボールを蹴る音が聞こえた。

無心でシュートを打つ見慣れた姿。
コートに足を踏み入れ、転がっているボールを１つ拾うと、國神は腕で汗を拭いながらこちらを見た。


「よう、朝帰りか？」

「うん。今から寝に帰るの」

朝までカラオケにいたせいで声が枯れて可笑しい。

「よく補導されなかったな」

「ほら、私大人っぽいからさ」

「どこが？」

揶揄う彼を肘で小突くが、少しも効いていない。

シャツの色が変わるほど汗だくな彼。
こんな朝早くから、一人で自主練をしているのか。

私と彼の生活はまるで真逆だ。


「私もやっていい？」

「その格好でか？」

厚底のブーツにフレアパンツ、チェスターコート。
言われてみると私は動くには相応しくない格好だ。

コートを脱ぎ捨て、ブーツは放り投げて裸足になる。

「ちょっ、おい」

ボールを蹴って、反対のゴールに向かって走り出した。

素足で感じる人工芝の感触が痛くて気持ちいい。

彼は慌てて追いかけて来て、すぐに私に並ぶ。

「地味に早いな」

「元、陸上部、だもん。言って、なかったー？」

笑いながら走るから、すぐに息が上がって言葉が途切れ途切れになる。

彼は息も上がっていない。

「どうりで。いいフォームだな」

すぐにボールを取られた。
私はそれを奪い返そうと足を出すが、簡単に遊ばれる。

「あー、もう降参」

後ろに倒れるように寝転がると、彼も私の横に腰を下ろした。

体を動かすのが久しぶりで気持ちいい。
私は部活を辞めてから遊んでばかりで、頻繁に朝帰りするくらいに不規則な生活を送っていた。

「ほら、水」

練習を中断してしまったのに、彼は嫌な顔一つしない。それどころかこんな私を気遣う良い奴だ。
差し出されたボトルを受け取ってニヤリと笑う。

「間接キスだね」

「っ！んなこと言うのやめろ」

耳まで真っ赤にして照れる彼を見て笑ってしまう。声を出して笑う私の目を、彼は「見んな」と大きな手で覆った。


こんなに笑ったのは久しぶりだった。

昨日のカラオケなんかよりも全然楽しい。
タバコやお酒がかっこいいと思って大人のふりする馬鹿よりも、このサッカー馬鹿といるほうが私は自由だ。

崩れるメイクも気にならない。
彼といるときだけ、私はありのままでいられる。

どうか、彼はそのままでいてほしいと願う。

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