こらえていた涙 〜あなたside ページ38
いつもお嬢ちゃんが抱かれている雅紀の胸を
今日は私が独占
細身に見えるのに
意外と筋肉質な胸に顔をうずめる
すらりとのびた四肢に身体を包まれて
ちょっと息が苦しいのは
きつく抱かれているせい？
それとも…幸せすぎるせい…
.
唐突に雅紀が、私が仕事を休んでいる理由を訊く
突然、…変なの。 そう思ったけど
でも、顔を上げるとマジメな顔で私を見つめてるから
茶化すことができなくて
考え、考え、ゆっくり口を開く
A：「詳しい内容は話せないんだけどね？
ほら、私のお仕事って、守秘義務があるから…」
雅：「シュヒ…ギム？」
A：「ふふ。…秘密を…守る…義務ね？」
空中に指で漢字を書いてみせると
雅：「あー、守、秘、ね？ 了解。…ふふ」
照れ笑いがあまりに可愛くて
私は空中に伸ばした指をそのまま
雅紀の右頬に浮かぶ、くぼみにあてる
雅紀はその指をつかむと
目尻にシワを寄せて、くしゅっとまた笑う
その笑顔を見ているうちに
雅紀の温かい胸の鼓動を感じているうちに
想いを打ち明けられそうな
自分を解放できそうな
そんな気がしてくる
.
病院のカウンセラーという仕事
私が担当している人は
もう、治らない病気と闘っている人も、多いの。
どんなにその気持ちを理解して、支えになろうとしても
他人が苦痛や悲しみを代わってあげることはできない
その無力感と矛盾を受け入れきれず
何年も働くうちに少しずつ蓄積する重荷で
私の心は折れてしまい…
A：「お仕事を休んでるのは、そういう、理由。
……弱い…私が、原因なの。
私が悩んだり、悲しく思うなんて、プロ失格なのに」
ふいに苦しい感情が湧きあがり
雅紀の胸に頬を押しつけてそう呟くと
頭の上で鼻をすする音が聞こえて、顔をあげる
A：「もぉ…やだ、…雅紀が泣かないで」
私は慌てて雅紀の目尻を拭う
雅：「…ごめん。
でもさ、A、プロだって、悩むことはあると思うよ。
大変なときは大変って言って良いんだかんね」
黒目を涙で光らせながら、
でも一生懸命そう言ってくれるから、思わず
私まで…涙が出てきてしまって
ずっと、もう何年も、無意識に
流すことを我慢してきた涙が
.
ラッキーアイテム
革ベルト
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