「君は悪くない」9

428.足が速い人 ページ31

・



「でも、ナナは……」

「ん？ どうしたの？」

「……いや、やっぱりなんでもない。確かにN͜͡umberはシアンさんとヨンジュさん、特にヨンジュさんがものすごく足速かったから、ナナが自分は速くないって言うのも分かるかもなって」

「ああ、ね。あの時一位だったの、本当にヨンジュとシアン兄さんのおかげだったよ。ヨンジュなんて60m走二連覇したしね」


 何かを言いかけたハンビンに違和感を覚えつつ、私は笑って頷いた。

 お兄さんがサッカー選手、妹さんはフィギュアスケート選手、ご両親もスポーツをやっていたという超スポーツ一家のシアン兄さん(シアン兄さんもアイドルを目指す前は水泳とサッカーをしていたらしい)もKPOPアイドルの中ではかなり足が速いほうだったけれど、ヨンジュはそれ以上だった。身内贔屓かもしれないけれど、仮にアイドルじゃなく陸上選手の道を選んでいたらオリンピックとか出ていたんじゃないかって思うくらい、ヨンジュは足が速かった。
 60m走で二連覇、リレーのアンカーでごぼう抜きをしてぶっちぎり一位ゴールしたというアユクデでの活躍から、足が速いアイドルとして番組や広告のオファーが来るくらいで。現役陸上選手と対決する企画ではかなり良い勝負をして、相手の選手に「今すぐアイドル辞めて陸上選手に転向したほうがいい」なんて言われるくらいだった。



「アユクデでヨンジュが走ったとき、体育館が割れるんじゃないかってくらい歓声凄かったよ。ヨンジュの走りを見てファンになったって方も居たみたいだし。足が速い人ってほんとモテるよね」

「あはは。確かに小学校とか中学校は足が速い男子がモテてたかも。日本もそうだったの？」

「同じ同じ。足速い男の子をかっこいいって思う女の子の気持ちはなんとなく理解できるけどね」

「……ナナも、そうなの？」


 やっぱり足が速い男の子がモテるのは万国共通なのか、いや、ヨンジュのモテる要素はそれだけじゃないけれど。そんなことを考えながら笑っていると、ハンビンが急に真面目なトーンでそう聞いてきた。なんだ、その質問。思わず首を傾げる。


「ん？ 俺が？」

「うん。走るの速い人ってかっこいいって思う？」

「まあ……普通にかっこいいんじゃない？」

「……そっか。頑張るね」


 ハンビンの返しに「うん？」となっていると、会話を聞いていたらしいユジンが「僕、足の速さには自信ありますよ！」と張り合うように言ってきて。つい吹き出してしまった。





・

429.サッカー→←427.アユクデ

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す