307.SOS ページ10
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「……落ち着いた?」
「はい。……すみません。こんな、汚いのに……」
便器に顔を突っ込んでいたのをやめ、私はそう呟いた。
あの後、フェテク兄さんがひとしきり泣き終わったあと。我慢していた吐き気が戻ってきてしまい、フェテク兄さんを置いてトイレに行こうとしたのだけど、結局察されてしまいフェテク兄さんに支えられながら吐くはめになった。私が胃の中のものを出している途中、ずっとフェテク兄さんは私の背中を優しくさすってくれていた。
「いいよ。僕も情けないとこ見せたから。おあいこ」
「絶対ゲロッ……吐いてる方が泣いてるより情けないと思うんですけど……」
「アイドルがゲロなんて言わないの! もう、変なところでミンミンの口の悪さが移ってるんだから……。
あと、Aが泣いてないのに年上の僕だけべしょべしょに泣いてたの大分恥ずかしいからね。……あ。ごめん、肩の部分に思いっきり付いたと思う」
「別に洗えばいいので大丈夫ですよ。……あと、フェテク兄さんが代わりに泣いてくれて良かったです」
こんなこと、他の人には言えないから。そう笑う私に、フェテク兄さんは「そっか」と寂しそうに返した。
「そういえばさ、シグナルソングが公開してすぐくらいにシアンにカトク貰ったんだよね」
手洗い場で口をゆすいでいたら、ふとフェテク兄さんが言った。
「そうなんですか?」
「うん。『Aのこと、よろしくお願いします。自分達じゃAを支えきれないから』って。あの時は二人は仕事が忙しいし、そもそも宿舎生活のAには干渉出来ないから、そういう意味で言ったんだと思ったんだけど……たぶん、それだけじゃなかったんだろうね。一種のSOSだったのかも」
「SOS……」
「うん。どうしようもなかったんだろうね。どんなにAを大切に思ってても、ずっと一緒に居たいって思ってても、辛いことは思い出させたくないだろうから」
確かに、シアン兄さんとミンジュン兄さんといる時間は幸せだったし、毎日代わり映えもなく生きていた私にとっては支えだった。でも、その感情とは逆に、申し訳なさもたくさんあって。そもそも逃げるように日本に帰ったのも、韓国にいると色々なことを思い出して辛くなってしまうからで。それを、二人に気付かれていたのかもしれない。
だから二人とも、次はいつ韓国に来るんだとか聞いてこなかったのか。今更そう気づいて、気を使わせていたことに申し訳なくなった。
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アップルパイ(プロフ) - 7さん» N͜͡umberのメンバーまで好きでいてくれて嬉しいですし、素敵なボイプラ関連の作品がたくさんある中で一番好きと言っていただいてとても恐縮です……! まだまだ長いとは思いますが、完結まで書きたいと思っているので、これからも読んでいただけたら幸いです。 (10月6日 20時) (レス) @page27 id: ce8ce21ff5 (このIDを非表示/違反報告)
アップルパイ(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» コメントありがとうございます! しばらくシリアスなシーンが続きますが、これからも読んでいただけたら幸いです! 本当に展開が遅くて申し訳ないのですが、更新頑張ります! (10月6日 19時) (レス) id: ce8ce21ff5 (このIDを非表示/違反報告)
7 - N͜͡umberのみんなに会いたくなるしYouTubeでMilkywayの映像を検索したくなりました。ボイプラ系の中で一番好きな作品です。ぜひ完結までいってほしいです。応援してます (10月3日 14時) (レス) @page27 id: 643f8a8165 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - 主人公の気持ちが細かく描かれていて凄く悲しくなりました。続きを楽しみに待ってます。 (10月2日 23時) (レス) @page27 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アップルパイ | 作成日時:2023年9月17日 5時