「君は悪くない」7

343.元ヤン ページ46

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「どんなに時間が経ってもナナちゃんはN͜͡umberの、H9の可愛い末っ子だもの」

「ハミンさん……」

「Aちゃんをいじめたり傷付ける人が居たら、すぐに言ってね。私から社長に言って、事務所の力でひねり潰してもらうから。事務所はあまり大きくはないけれど、お金はたくさんあるもの。きっと大丈夫」

「え……？ ひねり潰……？」


 今、ハミンさんの口から物凄く物騒な言葉が出なかったか。聞き耳を立てていたであろう周りの練習生やスタッフの方も聞いてしまったのか、ぴしりと空気が固まった。
 何が大丈夫なんだ。困惑する私も流れる微妙な空気も気にせず、ハミンさんは「もちろん、事務所の力に頼るだけじゃないよ」とにっこり微笑みながら拳をぎゅっと握ってみせる。


「ナナちゃんに嫌な思いをさせる練習生が居たら、その練習生に引くほどだっさい衣装着せるから！」

「本当にやめてください。公私混同すぎますそれ」


 ハミンさんはスタイリストの中ではかなり上の立場にいるようだし、その言葉はだいぶ洒落にならない。



(ハミンさんって、ミンジュン兄さんの姉なんだな……)

　いつもにこにこしてて、大人のお姉さんって感じのハミンさん。本当にあのミンジュン兄さんと血が繋がっているのか不思議に思ってしまうけれど、昔は「問題児」、「綺麗な顔して中身はえげつない」、「いつも不機嫌そうな顔をしている」と言われるくらいには尖っていたらしい。弟のミンジュン兄さんに呼び捨てで呼ばれても、ミンジュン兄さんとの熱愛記事を書かれて一方的に非難されても、一緒に仕事をしたスタッフや芸能人に口説かれても、全く怒らずむしろ笑って受け流してる人だから、過去のハミンさんと今のハミンさんと全然結びつかなった。でも今、納得できた。これは「元ヤン」だ。

　そんなことを思いながら、「そんなことしたらクビになっちゃいますからね」と私は苦笑いを漏らす。



「ハミン姉さんがいなくなったら困ります。ハミン姉さんとこうやって話すと気持ちが落ち着くから」

「それは嬉しいけどムカつくのはムカつくから一発…………って、え！ ナナちゃん、今私のこと……！」

「何のことですか？ というかハミンさん、そろそろ時間まずいですよ」

「うう……ひどいよナナちゃん……」


　そう恨めしく言いながら、準備を再開するハミンさん。それを見ながら、自然に笑みがこぼれる。痛いほど感じていた周りからの視線は、もう気にならなくなっていた。





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