326.知らなくていいこと ページ29
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「ジョンウ兄さん? どうしたんですか?」
暗い空気のまま私達のリハーサルが終わって、ステージから降りる。変な空気にしてごめんとか、さっきの話は気にしないでとか、みんなに何か言葉を掛けようと笑顔をつくった瞬間、前に居たジョンウ兄さんが振り返って私を抱き締めた。
突然のことに目を瞬かせながらジョンウ兄さんに聞くと、ジョンウ兄さんは「ごめん」と呟く。
「ナナがこの曲に思うところがあるってのは気付いてたのに……俺、ずっとナナの優しさに甘えてた。本当にごめん、ずっと辛かったよな。あんな辛いこと、思い出したくなかったよな」
壊れ物に接するかのように、私の背中を優しく触れるジョンウ兄さん。温かいその手に思わず小さく笑いながら、私は首を振った。
「甘えてたなんて、そんなことないですよ。ジョンウ兄さんがリーダーとして一番頑張ってくれたじゃないですか。そもそも、最終的にこの曲をやるって決めたのは俺ですから。辛いのも覚悟はしてました。自分を成長させる試練なんだって思ってたくらいで。
……逆に、俺がいたから無駄に気を遣うこともありましたよね。こんな辛気臭い話まで聞かせちゃって……俺、自分のことしか考えられてなかったです。むしろ俺が甘えてました。すみません」
世の中には知らなくていいことも沢山あると言うけれど、私の過去の話もそういう類いなのだと思う。ステージの上で輝くアイドルの暗い過去なんて、明るみにしないほうがいい。暗い部分が見えてしまうと、ステージを純粋に楽しめなくなるから。
(……私、本当に弱いな。欠点も弱点も何一つないくらい、強くならなきゃだめなのに。もう二度と、私の弱さで大切なものを失いたくないのに……)
だからこそあんな重々しくて反応しづらい話、するんじゃなかった。上手く誤魔化せる状況ではなかったけれど、だとしても感情に任せてつい言わなくていいことばかり吐き出してしまった。N͜͡umberの曲が歌えない、それを認めるだけで良かったのに。
私の告白を聞いて、全員が辛そうな顔をしていた。泣いている練習生だっていて。あんな顔をさせたい訳じゃなかった。あの日の記憶も苦しみも、私の中で留めるべきだったんだ。
そう反省しながら、「もう過ぎたことだから、さっきの話は気にしないでください」と笑う。
「……?」
私の言葉に、ジョンウ兄さんは私を抱きしめるのをやめて。代わりに私の肩に手を置いて、私の顔をじっと見つめた。
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アップルパイ(プロフ) - 7さん» N͜͡umberのメンバーまで好きでいてくれて嬉しいですし、素敵なボイプラ関連の作品がたくさんある中で一番好きと言っていただいてとても恐縮です……! まだまだ長いとは思いますが、完結まで書きたいと思っているので、これからも読んでいただけたら幸いです。 (10月6日 20時) (レス) @page27 id: ce8ce21ff5 (このIDを非表示/違反報告)
アップルパイ(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» コメントありがとうございます! しばらくシリアスなシーンが続きますが、これからも読んでいただけたら幸いです! 本当に展開が遅くて申し訳ないのですが、更新頑張ります! (10月6日 19時) (レス) id: ce8ce21ff5 (このIDを非表示/違反報告)
7 - N͜͡umberのみんなに会いたくなるしYouTubeでMilkywayの映像を検索したくなりました。ボイプラ系の中で一番好きな作品です。ぜひ完結までいってほしいです。応援してます (10月3日 14時) (レス) @page27 id: 643f8a8165 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - 主人公の気持ちが細かく描かれていて凄く悲しくなりました。続きを楽しみに待ってます。 (10月2日 23時) (レス) @page27 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:アップルパイ | 作成日時:2023年9月17日 5時