309.神様(イ・フェテク) ページ12
・
性別を偽ってステージに立ったことが、神様からこんな罰を受けるほど悪いことだったのだろうか。
(……そんなわけ、ないよ)
確かに隠し事はあった。それでも、Aが人並み以上の努力をし続けたこと、ファンにたくさんの幸せを届けていたことは紛れもない事実だった。アイドルという存在を愛し、ファンを大切に思う気持ちは偽りじゃなく、本物だったのに。
そう思うと悔しくて、ついまた涙が溢れてきた。
「フェ、フェテク兄さん……!? もう泣かないでくださいよ、目腫れちゃいますよ……!」
「勝手に出てきて止まらないの!」
「ええ……? あ、ちょっ、待ってフェテク兄さんの涙、止ま、ああ〜……」
目を開けて、鏡越しに僕を見たAはぎょっとして。すぐに手洗い場の隅に置いてあったティッシュケースからティッシュを数枚引き抜いて僕に渡してくれた。それで涙を拭うけれど、すぐにビショビショになってしまう。
ものすごく困った声を出しながらAはまたティッシュを数枚を渡してくれたけれど、やっぱりすぐに駄目にしてしまって。それを繰り返しているうちにAはもうだめだと諦めたのか、最終的に箱ごと押し付けてきた。
いつの間にかゴミ箱は僕が使ったティッシュでいっぱいになっていて、きっと明日の清掃員さんがびっくりするだろうなと思う。
「もう、なんでさっきから僕ばっかり泣いてるの」
「そう言われましても……」
眉を下げたAの目は、涙が浮かんでいることも、赤くなっていることも無い。泣くのを我慢している様子も無くて。さっきAが「フェテク兄さんが代わりに泣いてくれて良かったです」と言っていたことを思い出して、もしかしたらAは……と悲しくなるし、やっぱり神様が憎くて更に涙が出てきてしまった。
「あ〜……泣きすぎて喉乾いた……」
ティッシュケースの中身が空になった頃、やっと涙が止まった。
「自販機で何か買いましょうよ。奢ります」
「年下に奢らせるわけないでしょ。というかAも吐いたから胃空っぽでしょ。なんか食べよ」
「や、もうだいぶ夜……」
「Aは太っても困らないでしょ! ほら、カップラーメン食べるよ!」
僕の言葉にAは困惑していたけれど、すぐに「分かりましたよ……でも辛いやつは嫌ですよ」と笑って頷いた。
その笑顔を見ながら思う。どんなに神様がAを嫌って見放しても、僕はヨンジュの分までAを支えよう。と。
・
1892人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
アップルパイ(プロフ) - 7さん» N͜͡umberのメンバーまで好きでいてくれて嬉しいですし、素敵なボイプラ関連の作品がたくさんある中で一番好きと言っていただいてとても恐縮です……! まだまだ長いとは思いますが、完結まで書きたいと思っているので、これからも読んでいただけたら幸いです。 (10月6日 20時) (レス) @page27 id: ce8ce21ff5 (このIDを非表示/違反報告)
アップルパイ(プロフ) - 本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好きさん» コメントありがとうございます! しばらくシリアスなシーンが続きますが、これからも読んでいただけたら幸いです! 本当に展開が遅くて申し訳ないのですが、更新頑張ります! (10月6日 19時) (レス) id: ce8ce21ff5 (このIDを非表示/違反報告)
7 - N͜͡umberのみんなに会いたくなるしYouTubeでMilkywayの映像を検索したくなりました。ボイプラ系の中で一番好きな作品です。ぜひ完結までいってほしいです。応援してます (10月3日 14時) (レス) @page27 id: 643f8a8165 (このIDを非表示/違反報告)
本屋と図書館とガソリンスタンドの匂いが好き(プロフ) - 主人公の気持ちが細かく描かれていて凄く悲しくなりました。続きを楽しみに待ってます。 (10月2日 23時) (レス) @page27 id: b9b005fe2b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:アップルパイ | 作成日時:2023年9月17日 5時