「君は悪くない」7

308.気遣い（イ・フェテク） ページ11

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「……分かってるんです。つらいのは私だけじゃないって。家族のような存在だった、大切な仲間を失ったのはシアン兄さんとミンジュン兄さんも同じなのに。私より年上とはいえ、二人だって当時は21歳で。あんな出来事をすぐに受け入れられるような年齢じゃなかったはずなんです。……それなのに私、ずっと二人に甘えてました。多分、私の想像よりもずっとずっと、二人は私に気を遣って色々根回しをしてくれたんだろうな……」

 鏡をぼんやりと見つめるA。さっきまで吐いていたからかその顔からはいつもの穏やかな笑顔が抜け、疲れ切ってやつれていた。こんな表情を見るのは久しぶりだった。それこそヨンジュが亡くなったとき以来で。


(いや、それだけじゃなくて……)

 吐いて憔悴したからもあるけれど、純粋にAが前よりも痩せていたことに気付く。
 おそらく、ポジションバトルでSEVENTEENの『Home』をやることになってから。ストレスやフラッシュバックで何回か吐いて、どうせ吐くならと食べる量自体も減らしていたのだろう。昔から食が細くてメンバーや僕が用意して無理矢理食べさせなきゃ意識しなくても痩せてしまう子だから、今の状況でこうなるのも無理はない。元が痩せすぎなくらいなのに、と内心ため息をついた。



「それ、逆だと思うよ」

「逆？」

「うん。甘えすぎてたとかじゃないよ。むしろ、Aだってシアンやミンミンに気を遣ってたでしょ。二人にはそれぞれ仕事があるからとか、これ以上は迷惑を掛けたくないからとかさ。それでAが二人つらいとか、助けて欲しいとか、こうしてほしいとか言わないから、二人もどうしていいか分からなくて遠回しに支えるしかなかったんじゃないかな。三人とも優しすぎるんだよ。お互いを想いすぎててすれ違ってる」

「そう、なんですかね。……でも私、シアン兄さんやミンジュン兄さんに助けて欲しいとか思ったことないですよ。だって、二人が何かしてどうこうなるものじゃないですから。
方法なんかなくて、これが運命で現実なんです。あの時どうやってもだめで、二年経って別の形でステージに立つことになった今もだめだった。多分、一生だめなんですよ。私は、もう、」


 そこまで言って、Aはぎゅっと目を瞑る。




(……神様は、この子からどれだけ大切なものを奪ったら満足するんだろう)

 ふとそう思う。こんな辛い目に遭わなければいけないほど、Aは何か悪いことをしたのだろうか。





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