「君は悪くない」7

298.地獄（キム・テレ） ページ1

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「……ヨンジュがああなって、リアコ売りは危険だって、アイドルとファンは一定の距離を持つべきだってたくさんの人が言って。実際、前よりもヨンジュみたいなキャラクターのアイドルは減ったのかもしれない。それだけ、あの出来事はアイドル界にとって衝撃的なことだったから。昔から家や楽屋に侵入するとか怪我をさせるとか過激なサセンは問題視されていたけれど……まさか本当にアイドルがファンに殺されるなんて誰も想像してなかったんだよね。……俺だってそうだった。Equalの中にそんな人がいるなんて、思ってもなかった」

 視線を落としながら、ナナ兄さんはそう話した。
 確かにN͜͡umberはあの二年間で爆発的に売れていたけれど、サセンが酷いという話はあまりなかった。むしろ民度がいいと有名だったくらいで、だからこそあの事件はより突拍子もなく、衝撃的なものに思えたんだ。



 ふと当時を思い出す。朝起きてすぐ、ヨンジュさんがファンに刺殺されたというニュースが目に入った時。当時テレビや広告に引っ張りだこで、なんなら前日にもバラエティ番組で明るい笑顔を見せていたヨンジュさんがもうこの世に居ないということが信じられなかった。悪い夢を見ているんだと思いながら、ぼんやりとした頭のまま学校に向かった。でも電車、交差点、高校。行く場所すべてでヨンジュさんが亡くなったという話題で持ち切りになっていて。
 そして朝のホームルームの時間。休みの生徒が多いことに担任が「今日は仕方ないな」と言った途端、それでも学校には来ようと思ったのだろうか、それとも自分のようにまだ現実味が無かったのだろうか、Equalだったクラスメイトのひとりが急に泣き出してしまった。


(あの時は本当に、地獄みたいだったな)

 過呼吸に近い状況になってしまったクラスメイトが担任と他のクラスメイトに保健室に連れて行かれ、嫌な静けさが広がった教室で。本当にヨンジュさんは亡くなってしまったんだ、とじわじわと実感してきた時だった。



"N͜͡umber、あんまり好きじゃなかったんだよね。鼻につくっていうかー"

"分かる。正直さあ、あんなキャラやってたんだし自業自得じゃない？"


 そんな、心無い声が耳に入ったのは。どうしてそんなことが言えるんだ、そう言いたかったけれど、声を出す気力すら湧かなくなっていて。

 俺ですら当時を「地獄」だと思ったなら、ナナ兄さんはどれだけ辛かったのだろうか。と、今更そう考えて胸が痛くなった。





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