幼い賢女 ページ2
「お父様……？お母様……？」
彼女の目の前には血溜りがあった。
鮮血が飛び散った塀と、錆びた門があった。
一房の銀色の髪があった。
血に染まった母の髪飾りがあった。
血の海に溺れた父の懐中時計があった。
3歳の幼さといえど、彼女が状況を理解するには十分すぎる材料だった。
「ひっく……おかあっ、様っ、おとう…っ、様っ……。なに、が…っあったのっ……。どこにいっ、るの……っ、置いてかないでっ……いやぁだぁぁ……。一人にしないでぇぇ……、怖いよぉぉ……っ。」
怖くなって茂みに隠れた。
恐ろしくなって泣き出した。
どれくらい泣いていたかはわからない。ふと気配を感じて顔をあげると、人間の男性が立っていた。
「……お嬢ちゃん、一体どうしたんだい？外で泣きじゃくるのは危険だよ。」
「だってぇ……お父様と、お母様がぁ……っ、」
その男性に、拾った髪や懐中時計を見せてから血溜りを指差した。即座に状況を理解した男性は、「……可哀想に……。」と言って顔を歪める。
「……お嬢ちゃん、お名前は？」
「ルナ。ルナ・フレイアっていうの。おじさんは？」
「私はハンニバル・バルカ。ルナ、私と一緒に孤児院へ行こう。ここはあまりにも危ない。孤児院なら、幾分かは安全だ。……一緒に来てくれるかな？」
ルナは少し考えた。この場所で自分一人で生き抜くなんて不可能だと言うことは理解している。この人も人間で、悪い人では無さそうだ。
「一緒に行くわ、私。」
「…良かった、ありがとう。さぁ、ここを出よう。おいで。」
「待って！えっと……5分だけ待って！」
ここを立ち去る前に、ルナにはやるべきことがあった。一房の髪と髪飾り、懐中時計を持って立ち上がる。
そして、ワンピースの裾をビリビリと必死で破いて…血の海に浸す。
布が血で真っ赤になると、恐る恐る血溜りから取り出して走り出す。
何事かと、なにをするつもりかとバンニガルが驚いて後を追うと、屋敷の裏でせっせと土を掘っていた。
「……お父様もお母様も、お骨がないから。私は小さくて、お墓をたててあげることもできないから。せめて、……せめて一緒にお弔いをして、お花を備えてあげたいの。」
ルナが小さな手で掘った小さな穴に、先程血に浸していたワンピースの裾と銀色の髪を埋める。
そして土を元に戻すと、庭先から少し大きめの石を一つ、息も絶え絶えで運んできてはその上に乗せる。
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作者名：かいs | 作成日時：2020年5月25日 16時
