境界線を超える ページ17
レフは、太宰に言われた通りに街を歩いていた。
その後、路地裏へ来てくれと頼まれたレフはなんの疑いも無く足を運ばせる。
何やら、話声が聞こえて誰かいるのだろうと向かえば、
「…何故、ここに来てしまったんですか」
友が、立っていた。
普段の飄々とした憎たらしい程のポーカーフェイスなど投げ捨てて苦虫を噛み潰したような顔のフョードルが、此方を見ている。
何か、声をかけなければならないとレフは口を開く。
『フェージャく…、』
出掛けた言葉は、フョードルの後ろに倒れる太宰を見て喉に張り付いて出て来なくなった。
『太宰君!?』
血を流し、倒れる太宰に思わずレフは足を走らせた。
フョードルの隣を過ぎ、横たわる太宰を見て言葉に詰まる。
誰がやったのか?決まっているだろう、フョードルだ。
レフの声が震える。
『フェージャ君、君は…!』
「これ、返します」
パサり、とレフの視界に少し汚れた白が覆い尽くされる。
フワリ、としたそれを掴めばそれはウシャンカの帽子だった。
かつて、フョードルに贈り唯一ずっと使われていた帽子だ。
『返すって…』
呆然とフョードルを見るレフに背を向けてフョードルは歩き出す。
「僕には不必要な物なので」
『なっ、フェージャ君!まっ…』
追いかけようと立ち上がるが傍には怪我をし腹部から血を流す太宰がいる。
レフには、追いかけることが出来なかった。
『太宰君、直ぐに救急車を呼ぶよ…待っていてくれ』
返事はない、眠ってしまったのだろうか。
息はまだある。
レフは、グッと口を噛むと救急車が来るのを待つ。
無力感に苛まれながらレフは手に握られたウシャンカの帽子を見つめた。
◇◆◇
雪が降っていた。
歩く度にザクザクと乾いた雪の潰される音がする。
「なんです、貴方」
『いやあ、1人で寂しく公園に座っているなんて虚しいじゃないか。良ければ話し相手になってくれないか?』
「結構」
男がいた。
まだ幼めの青年と少年の間ような男が2人。
1人は暗く、影のある酷く整った顔の人形じみた男。
話しかけている男は、明るい太陽が如く輝く笑みを浮かべるこちらもまた整った顔の好青年。
全く接点などなく、片方が一方的に話しかけているだけのこの光景。
後の魔人フョードル・ドストエフスキーと、まだ物書きの卵であったレフ・トルストイが初めて会った冬の日の光景だ。
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なはて(プロフ) - ものすごい面白かったです!作者様の気が向いたらでも良いので、続きを書いてくれたら嬉しいです! (2022年4月25日 7時) (レス) @page22 id: 72c776ebcc (このIDを非表示/違反報告)
天人鳥(プロフ) - すんごい続きが気になります…。更新お願いします! (2022年3月28日 19時) (レス) id: d581acac34 (このIDを非表示/違反報告)
塩じゃけ(プロフ) - この作品完結してしまったのでしょうか…?続きが気になります! (2021年5月1日 12時) (レス) id: 5986ae6a0e (このIDを非表示/違反報告)
二酸化酸素(プロフ) - わたくしさん» それなです〜ほんと色とかもつけて欲しいです。絶対上手い (2021年3月27日 23時) (レス) id: f6be19e74d (このIDを非表示/違反報告)
わたくし - 絶対デジタルで絵描いたら上手いですよ! (2021年2月7日 1時) (レス) id: 6ee51eba6b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ユウリ | 作成日時:2019年7月16日 23時