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優貴side
「どうしたの、何かあった……？」
しばらく窓の外を見て動けない僕を現実に引き戻したのは、キョウダイの声だった。しっかりしなきゃ、今日は予定があるんだから。キョウダイにはなんでもないよと返して、ぺちんと自分の頬を叩いて活を入れる。
そう、今日は昨日のストーカー事件云々の件からキョウダイと相談して決めたとある作戦の決行日。俗に言う囮作戦、というやつだ。僕が適当に街を散策する間に、ストーカーと思わしき人が何か確固たる証拠になる行動をしたときに通報してしまおう、という至極単純明快なもの。まぁ正直子供だけでこんなことをするのはどうかと思わないでもないが。
僕はキョウダイと拳を突き合わせ、スカートを揺らしてキョウダイと共に玄関に向かう。ゆっくりとその扉を閉めて大きく息をついたあとで、足を動かし始めた。
お気に入りの洋服を着て気分が良く、スキップでもしたい気分だ。でも朝の出来事を思い出すとそれもできなかった。誰だって世界が終わるなんてことを突然告げられたら混乱するだろうし、何をしようなんてすぐ決まらないだろう。
鳩に告げられた時間は百二十時間、きっちり五日後だ。もし世界が終わるとして、それはどんな終わりなんだろうか？本当に滅ぶなら、それを事前に知らされなかった人は世界の終わりを知覚することは出来るのだろうか。出来れば、世界が終わるだなんてことを知らなきゃいいな。
僕のキョウダイには、どうしても幸せに居て欲しい。だから世界が終わるとしても、そんなことは知らずにいつも通りの笑顔を向けて欲しい。そう思うのはわがままなことかもしれない。無知なことは悪いことじゃないと思いたいな。
どんっ。
「っ、わ！」
そう思った矢先、僕は正面から誰かに激突し、尻餅をついた。キョウダイも足を止め、僕達は何事かと今まで上の空だった自分の意識を目の前の人に向ける。それを見て一瞬硬直する僕。パーカーとマスクという格好で、目深に被ったフードで見えない顔。キョウダイと一緒にいるときによく見かける、例のストーカーをしてる──と思わしき──奴だ。
「嗚呼すまない、前を見ていなくてな。……立てるか？」
その人は僕に手を差し伸べてくれたけれど、その手を取るのはなんだか怖くて、僕はその助けを借りずに一人で立ち上がった。
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