＊前日。 ページ4
優花side
最近、僕はストーカー被害を受けている。
もしかしたら僕の思い過ごしかもしれない。昔から夢見がちで空想癖のある子だと言われてきたから。だが、それにしたって変なぐらい、よく嫌な視線を感じるのだ。
しかも最近になって、どこに行っても必ずパーカーとマスクを着用した人に出会う様になった。そりゃパーカーとマスクなんてありふれた格好だけど、あんな風に深くフードを被って顔を隠した人はそうそう居ない。パーカーのフードをかぶってる人はそもそもあまり見ないのだから、あの人はちょっと目立った。
警察にでも連絡した方が良いのだろうか。でも本当に彼に会うのが偶然だったら？だったら僕はすごくその人に迷惑をかけてしまうことになる。
……悩んだときはキョウダイに相談するのが一番だ。いつも一緒にいる、僕の大事なキョウダイ。
冷たい床に足をつけたくなくて脱ぎ捨ててあったスリッパに足を突っ込んでから、僕は隣の部屋に行くと、一思いに扉を開けた。開け放った扉が壁に当たり、けたたましく音を立てる。
「どうしたの？」
瞳の中にある自分と同じ勿忘草の花畑で半泣きになっている僕は、随分とその瞳の持ち主に心配されているようだった。キョウダイってば心配性なんだからといつもなら笑う僕も、今はそういうわけにいかない。本当にその人がストーカーだったら僕は大分危険……だと思う。
「……何言っても、引かない？」
不安と期待を込めて、キョウダイを見上げる。身長は同じぐらいだったので見上げたというか、俯いて上目遣いになっただけなのだが。
父も母も忙しいだろうし、何より相談して心配をかけたくない。本当は親に相談しないのは間違っていると分かっているけれど。一番僕が信頼できると思えるのは、僕と一番理解してくれるのは、キョウダイであることは間違いなかった。
「勿論、引いたりしないよ。大丈夫だから、とりあえず話してみて」
「……絶対だよ」
そう言って僕は話を始める。
キョウダイはずっとそれを真面目な顔で聞いていてくれた。
一通り話し終えて、僕は口をつぐむ。目の前のキョウダイは真剣に何かを悩んでいた様だったが、ふと何か思いついた様にポンと手を打った。
「良いこと思いついた」
キョウダイはにっこり笑って、心配すんなと僕の頭を撫でる。それはとても安心できて、その日はいつもよりぐっすり眠れる気がした。
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