永遠色グラフィティ

こっちおいで(1) ページ6

「シゲー」


「ん？どした？」


出掛ける支度をしていると、

まっすーから電話がかかって来た。



「風邪引いた…」


「風邪？！」


珍しいな、健康オタクのまっすーが。


最近一人暮らしを始めたばかりのまっすーは、

まだ家族のいない暮らしに不慣れで

心配になる。



「熱ある？」

ジーンズに足を通しながら

まっすーの声に耳を澄ます。



「うん…あると思うけど…」


「体温計ないんだ？」


「うん」


「ちょっと待ってて。すぐ行く」



急げば間に合うよな。


うちにあるグレープフルーツやら生姜やら、

体に良さそうなものを袋に詰め、家を出た。




ガチャ、ガチャリ。


合鍵でドアをそっと開ける。


「まっすー…」


寝室を覗くと、布団が丸く膨らんでいる。

顔は見えない。




そっと布団をよけると、

汗をかいて少し苦しげに眠るまっすーが出て来た。

相当具合悪そうだこりゃ。



とりあえず体温測って頭にタオルと…


なるべく静かに

まっすーの着ているスエットの裾をまくるけれど、


「ん…だれ…？」


起きるよな、まっすーだもんな。



「俺だよ。

ごめんな、ちょっと熱測ろうな」


「ん…ありやと…」


熱のせいか朦朧としている。



そっと脇に体温計を差し込むと、


「冷た…」


目を閉じたまま、眉をしかめた。


「汗いっぱいかいたね」


枕元にあったタオルで顔を拭うと、


「仕事だいじょぶ？

間に合う…？」


うっすらと目を開けて言った。



「うん大丈夫。心配しないで。

お前が元気じゃないと、俺の調子も出ないわ」


汗を拭いて水を飲ませると、

少しスッキリした顔になって微笑んだ。



ピピピッ。


暫くして体温計が鳴る。


わ、38.5度かぁ…。

結構あるな。



「まっすー、病院行こうか。

今マネ呼ぶからさ、連れて行ってもらおう」



流石に俺にはそこまでの時間は無かった。


今日は小山と未来シアターの収録。


小山はその後every.があるから、

時間は限られている。



側にいてやりたい。

こんな時こそ隣にいたい。


返事を待ちながら見つめると、


「ううん、寝てる。

何かあったらマネに電話するから…

仕事行って…」


「でもお前、」


「だいじょぶ…」


話すのも辛そうで、俺は仕方なく頷いた。


「じゃあマネに連絡しとく。

何かあったらすぐ電話しろよ。絶対」


「ん。いってらっしゃい、シゲ…」


あ、グレープフルーツ。

思い出した時にはもう、眠りについていた。



(つづく)

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