永遠色グラフィティ

散歩(2) ページ48

「何？」

にやつく手越は言う。


「一番面倒なのは慶ちゃんだなと思って」


「え？なんで俺？シゲのがめんどいじゃん！」

激しい否定は全く受け付けられず。


「なるほどなるほど。

慶ちゃんはそう思ってるわけね」


「何だよー理由教えてよー」


寝そべる手越の背中に馬乗りになると、

手越はくるっと回転して仰向けになる。


「慶ちゃん、今シゲが帰って来たらどうすんの？」

そう言って腕を伸ばし、俺の首に手をかけた。

ぐいっと近付く顔。


「おわっ、何何っ？！」


キスされるのかと仰け反ると、

「ふふっ、ま、お気になさらず！」


腕を外してまた寝転がり、

慶ちゃんちは居心地いいなぁ〜と床で伸びをする。


「お前んちは良くないの？

いつもきれいじゃん」


手越とまっすーの暮らす部屋は、

物が少なくていつも清潔だ。

主にまっすーの努力で。


「んーまあね」

なぜか疲れたように笑って、身体を起こした。



その後昼飯を一緒に食べ、

本棚を漁ったりベッドルームを荒らしたりと遊び尽くし、

手越は上機嫌で帰って行った。


俺が一番面倒だと言った手越の言葉がどうにも引っかかり

夕方に向かう街を見下ろしながら紅茶を啜って考えていると、

玄関が開く音がした。



「ただいま・・」


いつもは飛んで行く俺が来ないのを訝しく思ったのか

そーっと居間に入って来たシゲは、

小山？とベランダを覗く。


「あ、おかえり」

「ただいま！」

そこにはいつもと変わらないシゲの笑顔。


「魚釣れた？」

「うん結構釣れた。晩飯豪華だから楽しみにしてて」

「やったー！嬉しい。お茶でも飲む？」

「うん飲む」


一緒に台所に行き俺が冷蔵庫からお茶を取り出している間に、

シゲは棚からコップを二つ出して、コトンと置いた。


「今日暑かったでしょ？」

美味しそうに麦茶を飲むシゲの喉を見ながら、

夏を感じる。


夏休みの小学生みたいだなんて思いながら。


「マジで暑かったわ〜。超汗かいた。シャワー浴びてくんね」

そう言いながら、居間に置いたクーラーボックスの前に胡座をかいて座る。



「あれ？」


・・・・。


「どした？」

やけに長い沈黙に

茶碗を洗っていた手を拭いて居間に行くと、

シゲがラグを見つめていた。


「どうしたの？」

覗き込むと、数組のラグの毛が緩く結ばれている。


「何これ。誰か来たの？」

やけに低いシゲの声にびっくりしていると、


「小山？」

不安げな顔が、俺を見上げた。



(つづく)

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