永遠色グラフィティ

やっと手に入れた悲しみ(3) ページ25

「ただいま」


あの日以来、微妙な空気が流れている俺たちだけど、

喧嘩を翌日まで持ち越すようなことはしない。


今日も普通にしていよう、

そう決めて二人の家のドアを開けた。



「おかえりー」

台所にいたまっすーが笑顔を覗かせる。



「何やってんの？」

料理もできないのに何故台所？


「ラーメン作ろうと思って」


「またインスタント？駄目だよそんなの。

今なんか作るから待ってて」


荷物を部屋に置きながら言うと、


「いいよ別に。

忙しいんだから気にしないで」


あ、また出たよ。

不機嫌の虫が・・。



慣れないドラマの現場。

始まったばかりで緊張の連続なのに。

家に帰ってまで気を遣わなきゃいけないの？



「まっすー、わかるけどさ」

ため息をつきながら言うと、


「何が」

湧かしていたお湯に麺を入れ、

こっちを見ようとしない。



「気に入らないんでしょ？俺が女優さんと絡むの。

じゃあなんだったら良いの？

俺は何もせずに家に篭ってろって？」



「・・そうだよ。小山は家にいろよ。

小山は家にいて、俺の帰りを待ってれば良いんだよ！」


出来上がりかけていたラーメンを

鍋ごとシンクにひっくり返し

持っていた箸を投げつけると、

唇を噛んで台所を出て行こうとする。



「待ってよ。俺が出てく」


肩を押さえつけ、

部屋に置いた荷物を取ると

俺は玄関に向かった。



「小山！」


慌てて追いかけてくるまっすーを振り切るのは辛い。

嫉妬してくれるのは嬉しい。だけど。


だめなんだ、俺たち。

このままじゃ。



今までみたいに

先輩のバーターだけやってても、

俺たちに未来はないよ。


俺、もっとたくさんの人に

NEWSのこと、知ってもらいたいんだ。



「待てって小山！」

必死に腕を引っ張ってくる。



「まっすーごめん。

集中したいから俺、

しばらくホテルに泊まるわ」


「小山！」


目に涙を湛えたまっすーを振り切って

後ろ手にドアを閉めた。


きっと見せるから。

見たことのない小山慶一郎を。

誰よりもまっすーのこと、

クラクラさせてみせるから。



ーーーーーーー



その日から俺は、

ドラマの仕事に没頭した。


女の人と手をつなぐのさえ初めてだった。


だけど、そう見えてはいけない。

だって俺は遊び人の役なのだから。


キスだって、今までしたことのあるのは

一人だけだ。


まっすーはいつだって

俺を優しく導いてくれるけれど、

それじゃ駄目なんだ、今は。



(つづく)

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