永遠色グラフィティ

できるかな(1) ページ17

「慶ちゃん、ちょっとそっち持って！」


練習室で長机を動かそうと

慶ちゃんに声をかけると、



「やだよ。自分でやれよ」


えっ・・？


今まで聞いたことのない冷たい言葉に固まった。



「どったの？手伝うよ」


まっすーがやってきて端っこを持ってくれる。



「・・あ、ありがと」


首を傾げながら机を動かす。



シゲが来て四人揃ったところで

練習を始めた。



「ここ、こういうのどう？」


新曲の振り付けアレンジを提案すると、

いつもは良いね良いねと笑顔で言ってくれる慶ちゃんが・・。



「さっきの方が良いって。

勝手に変えんなよ」


冷たく言い放った。



一体どうしたんだ？


それに黙ってる俺じゃ、勿論ないんだけどね。



「慶ちゃん、今日どしたの？

なんか随分雰囲気違うけど」


休憩時間に問うと、



「俺も思った。何、イメチェン？」


隣で水を飲むまっすーも言う。



「は？別にそんなことないけど。

俺いつもこんなだよね」


隣のシゲに同意を求めると、

どういうわけかシゲは頷く。


へ？


「いつもこんなじゃん。

お前らこそどしたの？」


不思議そうにみつめられ・・。



「いや、いつももっと優しいし！

いつも俺の言うこと肯定してくれるじゃん！」


横で頷くまっすーと、

途方に暮れる俺。



不思議そうな慶ちゃんに不安が募る。


どうしちゃったのさ。


その日の練習は、そんな調子のまま終わった。



ーーーーーーーー



「慶ちゃん、今日家言ってもいい？」


「え、来んの？なんで？」

荷物を詰めながら、顔も上げずに言う。



「なんでって・・いつも行ってるじゃん。

まだ時間早いし」


「ふーん、まあ良いけど」



原因は解らないけど、

パラレルワールドに迷いこんじゃったか、

慶ちゃんが変なものでも食べたか。


そのどっちかだと思い込むことにして、

普段通りに接しようと決める。



マネージャーに送ってもらい、

慶ちゃんの後ろから部屋に入った。



「なんか食べる？」


そのいつもの台詞を待ったけれど、

手を洗って着替え終わっても

口を開こうとしない慶ちゃん。


それどころか一人でビール開けて

台所で始めちゃってるし。



「慶ちゃん、俺もちょうだい！」

寄っていって笑うと、


「自分で出せよ」

面白くなさそうにため息をついて、

おつまみの柿ピーをつまんでいる。


「俺も」

ひとつまみ口に放ると、


「辛っ」

冷たい目で慶ちゃんが、俺をちらりと見た。



(つづく)

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