志麻*君に幸あれ*鎖座波 ページ4
「おかえりなさいませ!志麻さま!」
「……………は?」
それは4月の終わりのこと。
新生活だ!と意気込んで思い切って引越しをした新居での出来事だ。
ずるり、と肩からずれ落ちたカバンがそのまま重力に逆らうことなくストンと音を立てて地面に落ちた。
「……お前、誰やねん。警察呼ぶで」
口から出たのは警戒と怒りを含んだものだった。
家に帰って扉を開けると、知らない女が自分の家であるかのような当たり前の顔でこちらに「おかえりなさいませ」と言ってきた。
当然、女の顔は知らないし、知り合いでもなんでもない。となると、知らずの内にストーカーをされて家を特定されたか、俺のリスナーが俺の家を特定して、勝手に上がり込んだか。
当然許される筈もないので、俺はそんな女のことを睨みつけて相手から返事が来るのを待った。
「志麻さま、顔が怖いですよ?」
「そらそうやわ。とっとと出て行けクソ女」
「何でですか!私の家に住み込んだのは志麻さまじゃないですか!」
「もうええわ警察呼ぶ」
薬か何かでもやっているのか。この女の言っていることは何一つ理解できないし、理解したくもない。
何を思ってこんなことを言っているのだろうか。
害悪リスナーだとしても流石に頭がおかしすぎる。
スマホを取り出して、部屋の奥で警察に電話をしようと思ったので彼女を退けようとした。
そう、確かに俺は押し退けようとした。
「………え?」
目の前に居る女を押し退けようとした左腕は彼女の身体をすり抜けて空を切ってしまった。
何がどうなっているのか。全く分からない。
目をパチリ、と一つ瞬かせれば、目の前に居る謎の女はクスリと笑って見せた。
「志麻さま、私幽霊なんです!」
「……………………ちょっとまだ待って理解できん……」
頭を抱えてその場に座り込む。
彼女が幽霊だと言うことは分かった。理解出来ていないけど、大方理解した。
それはすり抜けてしまった腕が彼女は幽霊だと言うことを論付けて居た。
だが、そんな、幽霊だなんて本当に存在して、こうも人間に無害な生き物なのか。いや、生き物、だなんて間違っている。だって、コイツは死んでいるのだから「生き物」ではなく「死に物」になるのだろうか。
どうでもいいことしか考えられずになってしまった頭をスッキリさせるように、俺は立ち上がって幽霊に向き合った。
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作者名:作者一同 x他4人 | 作成日時:2020年4月5日 19時