事件現場御紹介旅行

零章｢旅行の御案内｣ ページ1

その日僕のスマホに届いた、一通のメール。差出人は分からない、何故だか文字化けしているようだ。何か添付ファイル等はない、金の請求もない。最近危ない広告を踏んだ覚えもない、登録もしてない、ならいつアドレスを引き抜かれたのだろう。
開くのも怖いが、内容を見ないと迷惑メールに登録出来ないようになっている。仕方なくメールを開くと色とりどりの画像が目に入った。｢事件現場御紹介旅行の御案内｣と書かれている、漢字が多いな。


『今まで起きた事件をまるで体験しているかのように見て回りませんか？』
『猟奇的なものから極々普通のものまで取り揃えています』
『お申し込みは下のバナーから』


その名の通り、事件現場を回るツアーみたいなもののようだ。いわゆるニュースで見る殺人事件や、地方ニュースにも載らないような小さな事件まで、どんなものでも見れるらしい。
事件というのは、少しでも自分の興味を引くイメージがある。どこかで人が轢かれた、何かが盗まれた、赤ちゃんが捨てられていた、飛び降りだ入水だ何だ。耳にすると怖いもの見たさかチラリと視線を向けてしまう。ニュースではアナウンサーが真顔で説明していて、所詮他人事かと思うのだ。
それが自分の事のように説明を受けることが出来るのか、これは。どうせ大したものじゃないだろう。でも、少し興味が湧いた。この辺の事件だとか、どこかの片田舎の事件なんかニュースで見ないだろう？ ちょっと気にはなる、この世の中で抹消されてきた事件はどんなものなんだろうかって。

下のバナーを迷わずクリックしていた。WiFiの元にある携帯は、すぐにサイトを開いてくれる。トップに大きく出ている｢事件現場御案内旅行｣の文字は、メールと同じフォントだ。
この旅行について詳しく内容が書かれているようで、それによると今回限りの旅行になっているようだ。メールには書かれていなかった申込期限は、明日。心の中で(危なかった…)と思う。今思い立ってよかった。

申し込みはこちら！と書かれたリンクを開いて、必要事項を埋めていく。名前、住所、電話番号、メールアドレス等。費用はクレジットカードで払う事にし、財布からカードを取り出した。最後のところに｢必ずこの旅行を口外しないことを誓いますか？｣という質問とチェックマス。珍しい項目もあるもんだ、と何も考えずにチェックをいれた。

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