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「翔さん、」
「ん？」
「あの子じゃ、ないでしょうよ・・・」
.
あの後彼が帰ってくる直前に俺は仕事で呼び出しをされて。
結局話ができたのは、あれから3週間ほど後のことだった。
.
大企業の副社長に、恋人ができたのは知っていた。
先日一緒に飲んだ時に、
嬉しそうに、そして楽しそうに話すから
相当惚れ込んでいるのは、手に取るように分かった。
.
通っていた大学も、就職先も違うけれど、
同い年の俺たちは家が近所で、小さいころからお互いに知っている、
所謂″幼馴染″だ。
.
「・・・何のはなし？」
「恍(とぼ)けんなよ、あんな若い子・・・目ぇ覚ませよ」
「んで、そんなに怒ってんだよ、」
「怒るだろ！アンタ頭おかしくなったのか？！」
.
翔さんが、新しく恋人を作ったことは、素直に嬉しかった。
俺が知る限り、30年以上の付き合いの中で
彼に特定の恋人ができたのは、1度だけだ。
.
恋愛の話を、彼がすることはなかった。
俺が、自分の彼女の話をぽろり、と何かの拍子にすることはあっても、
彼は自分の口から、自分の恋愛を語る人ではない。
.
「冷静に考えろよ、翔さん今36だぞ？
おままごとみたいな、子供の恋愛に付き合ってる時間なんかねぇの、
自分が一番よく分かってんだろ？」
「・・・」
「それとも何？
あの子お嫁にもらうつもりなの？まだ大学生で社会にも出てない子供を？
まだハタチで、次期社長を支えることなんて到底無理な女の子を？
ちょっと考えればわかることだろ？！」
「・・・なんでニノがそんなこと言うんだよ、」
「俺が言わなきゃ誰が言うんだよ！」
「・・・」
「翔さんが、恋愛できるようになったのは、すげー嬉しいよ。
でも、16歳も年下の、まだ何も知らない女の子・・・可愛そうだよ、」
.
目の前の彼は、
何も言わずに、グラスを傾けている。
.
「ちゃんと恋愛できる相手じゃねーだろ・・・？」
「・・・」
「なあ、」
.
騙されるなよ。
・・・目を覚ませよ。
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