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その人が来たのは、突然だった。
いつもの、居酒屋、
仁を待っていた隅のお座敷。
.
「＿こんばんは、」
.
聞きなれた仁のそれじゃない、
違和感のある声に、顔を上げると、
二宮さんが、立っていた。
.
＿まだ、大学も卒業してない20歳の君が、大企業の副社長で次期社長になる彼の支えになれる？＿
そう、1か月前に私に告げた、
その人だった。
.
反射的に足元に置いてあった鞄をつかむ。
なんで、二宮さんが、ここにいるのかとか、
仁は何で来てないのか、とか
そんなことより、″逃げなきゃ″と、反射的に思った。
.
「待って、」
「！」
「・・・座って、」
.
逃げ道をふさがれて、
静かにその場に腰を下ろす。
.
「仁は・・・ごめん。嘘ついてもらった、」
「・・・」
.
二宮さんは、机を挟んで私の向かいに座って、
黄色いネクタイを緩めた。
仕事帰りだと、すぐに分かるその恰好で、
いつもスーツ姿で会いに来てくれていた櫻井さんを、思い出した。
.
「・・・何か、用ですか、」
「だから、こうして呼び出してるんだけど？」
「なん、ですか。」
「・・・翔さんのことなんだけど、」
.
ほら、やっぱり。
もう、聞きたくない。
.
このまま、私の我儘を貫き通せば、
心優しい櫻井さんは、きっと。
無理に私を連れ戻したり、しない。
.
これ以上傷つく言葉なんて、
聞きたくない。
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