二種類の身震い ページ5
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思わぬ衝撃――――――な、な・・・――
『何!?』
私を海に突き落としておきながら、悠々と猫を撫で此方を見下ろす男、――太宰治
「悪かったねぇ、手が滑ったのだよ」
『有り得ない』
百歩譲ってもっと素直に信じられる言い訳を吐いて欲しいものである、どう滑ったら隣に座る人間を海に突き落とせるって云うんだ
総じて有り得ない
不機嫌全開でプカプカ浮かぶ私に、笑顔で手を差し伸べる辺り、本当に何を考えているか分からない男だ。其の手を引っ張って同じ様に水浸しにする手もあるが、生憎私は大人だ。――少なくとも此の男の精神年齢よりかは
『どうもありがとうございますぅ』
「うわぁ、皮肉っぽい」
『誰のせいで!』
「随分と生意気になったものだねぇ
誰に似たんだか、全く、腹立つよ」
仕掛けたのは其方のくせにブツブツと文句を云い出した太宰を尻目に、買い物袋を持ち上げた。季節は夏とはいえ太陽が完全に沈んだ今、濡れた侭では寒い
ブルり、身震いする体を動かして踵を返した時だ
____バサッ
『え』
掛けられた砂色の外套
「まだ、話は終わってないんだけど
今日のところは見逃してあげるよ」
ポンっと肩に手を置いて、「風邪を引かれちゃあ困るしね」と至極楽しそうな笑みを浮かべながら云った。――じゃあなんで落としたよ・・・
此の男の一言一言に裏が有る気がしてならない
其れは昔から変わらない。故にこうして急に姿を現わす事は薄々勘付いていた。” 迎えに来るよ、必ず ” あの言葉の裏に隠されたのがまさか勧誘とは思わなかったけど
『私、組織を抜ける気はないから』
「その強気、何時迄続くかな?」
『どういうこと』
「私は何度だって口説くよ、君が落ちるまでね」
――ブルり、寒さとは違う意味で身震いした
『・・・外套、洗濯して返す』
「おおぉっ、次会う口実を作るなんて!
中々出来る女に成長したねぇA!」
『誰がっ!!探偵社に送りつける!!』
「はいはい、又ね〜」
読めない笑顔でひらひら手を振る太宰に、もう一言二言文句を云ってやりたいところだが、数倍にして返される事だけは読めるのでやめて踵を返す
――すっかり暗くなったヨコハマの港
買い物袋をぶら下げ、あの男の体温が残る砂色の外套に袖を通した私は、―――鼻歌交じり、自然と緩む頬を其の儘に海沿いの帰路を歩いた
『――・・・あ、中原の分の鯖無いや』
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ハウスダスト(プロフ) - 中也さん…。いいやつだなぁ…。 (2017年12月4日 21時) (レス) id: aedc87e387 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - 中也アアアアアア哀しい。 (2017年8月25日 23時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - お疲れ様でした!とっても面白かったです! (2017年8月25日 23時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - うわーん(涙) (2017年8月25日 23時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - なんと!宣戦布告っていう言葉がそのまま出てきた! (2017年8月25日 22時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:七森 | 作成日時:2017年8月15日 17時