五年前 ページ2
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―――大きな赤い満月が煌々と私を見下ろす夜だった
「手前、勝算無しに俺を殺そうとしただろ」
ハットを被った小さな男が今日此処を通るから殺せ。
――誰かにそう云われたから其の通りにしただけ
今思えばあの人は、こうなる未来を見えた上で私に声をかけたのかもしれない。其の理由は私を殺すためか、其れとも―――・・・
「チッ、黙りか」
ボロボロになった齢16の私を見下ろして一つ溜め息を吐き、「ついてこい」と一言云うと、黒い外套を翻し歩みを進めた男。其の後ろ姿をぼーっと眺めていると、
「なンだよ立てねェ程殴ってねェだろ」
と、踵を返し元の場所まで戻って私の腕を引き上げた。――暗い闇から下手な餌で釣り上げられた気分だった
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男に連れてこられた場所で私を待っていたのは拷 問でも処刑でもなく、温かい紅茶の香りと綺麗な顔の男だった
(あの人――・・・)
見覚えのある顔、私に例の言葉を投げた人だ
「やぁ中也、遅かったねぇ、手古摺ったかい?」
「巫山戯ンな、面倒押し付けやがって
______一体どういう魂胆だ」
矢っ張り、魂胆があったのか
下手な餌で釣り上げられた気分はそのせい
「なぁに、簡単な事さ、真っ向じゃ私は手に負えない
マフィアも震える最厄の殺人代行人だからねぇ
生きて此方に引き込むには君が適役だったのだよ」
そう、私は殺人代行人。――所謂暗殺者だ、ただ云われた通り殺すだけ、其処に感情なんて要らない、無だ。そうやって生きてきた、之からも其れは変わらないと思っていた
そう、思っていたんだ、此の時までは――・・・
「さて、手当をしようか_____
____あーあ、派手にやられたねぇ」
「莫迦云え、之でギリギリだぞ、俺も深手負った」
「小さな抗争ばかりで腕が鈍ったのかい?中也」
「あ"ァ!?」
『・・・なんで、手当なんて』
疑問に思った、だから其れを其の儘口にした
可笑しな事だったのか、一人は小さく溜め息を吐き、一人は一瞬目を丸めてから直ぐ、優しく微笑んで答えた
「――怪我をしたら手当をする
寒かったら温かい紅茶を飲む
其れが生きるって事なのだよ」
茶目っ気を含んだ顔で、「まあ、多分だけどね」と付け足した男の言葉は、冷えた私の心にひどく浸透した
男は名を、太宰治と云った
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其れから一年、―――太宰は、姿を消した
唯、一言だけ残して――・・・
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(注:ラブコメです)
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ハウスダスト(プロフ) - 中也さん…。いいやつだなぁ…。 (2017年12月4日 21時) (レス) id: aedc87e387 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - 中也アアアアアア哀しい。 (2017年8月25日 23時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - お疲れ様でした!とっても面白かったです! (2017年8月25日 23時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - うわーん(涙) (2017年8月25日 23時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
十音 - なんと!宣戦布告っていう言葉がそのまま出てきた! (2017年8月25日 22時) (レス) id: e1078df416 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:七森 | 作成日時:2017年8月15日 17時