きっと、君と何度でも。【紫】 (ページ5)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:24,142 hit

＊四話＊ページ5

「かいりせい…けんぼう？」

聞き慣れない言葉に思わずオウム返しをした。

先生は深刻そうな面持ちで言葉を続ける。

「一般的に言えば、記憶喪失と言った方がわかりやすいかもしれませんね。
主に記憶障害が見られるのが健忘です。

解離性健忘は、トラウマやストレス等が原因と見られる健忘の名称になります」

やっぱり記憶喪失だったんだ…。

それだけでも充分ショックなのに、俺が原因だなんて。

未だにこれが現実だと信じられない自分がいた。

「如月さんの場合は全般性健忘と見られるので、大分稀なケースです」

「そう……ですか」

正直、返事をするのがやっとだった。

俺はこの先どうすればいいんだ？

Aの友人達、それに俺を信用してくれたAの両親にはどう顔向けすればいいのか。

俺がこんなことを考えている間にも先生はAの容態を告げていく。

「それで、彼女の治療についてなのですが」

「っ、記憶が蘇ることもあるんですか!?」

先生の言葉に俺はすぐ食いついた。

Aの記憶が戻ることがあるならば、それが最善だ。

「はい。適切な処置を行っていくことで、彼女の記憶を取り戻すきっかけも作れるかと」

一気に希望が見えてきた。

まだ記憶が戻ると決まった訳でもないけれど、さっきより格段に気分が高まる。

「それはどうすればいいんですか!?方法を教えてください!!」

俺は思わず先生に詰め寄る。

そんな俺に対し、先生は瞳を静かに閉じて言った。

「記憶を失う原因となった出来事から遠ざかること＿＿

如月さんの場合は、ストレスの原因である紫水さんと距離を置くことになります」

「え……っ」

それはつまり……

俺は、もうAに会わない方がいい？

「まだ様子見の段階ですが…彼女のことを考えると、その方法も視野に入れるべきかと

辛いでしょうが、彼女の為です」

高まっていた気持ちが一気に沈んでいった。

本音を言えば、絶対に嫌だ。

Aが振り向いてくれなくとも、傍にいて見守っていたい。

でも＿＿Aの為か。

「わかりました……ありがとうございます。俺はこれで」

「そうですか。…まだ決まった訳ではないので、お見舞いにでも行ってあげてください」

俺は椅子から立ち上がり、心配そうな先生の声を聞きながら部屋を後にした。