【 呪術廻戦 】兄がクズ過ぎる件。──？【 禪院直哉 】

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父さんが亡くなる直前。もう長くはないと伝えられた際に兄達は呼び出され、私も直哉兄さんと共に急に集められた。冷えた部屋に残る懐かしい香りが滑らかで心地好い、兄さんの横顔をふと眺めてみる。少しは悲しむかと思っていたのに笑っていた、満面の笑みとも呼べる表情に声も出なくなったが。私の兄は昔からこんなだったな...と、余り気にしない事にしようと口を噤んだ。廊下を歩む足が止まり、次の瞬間、兄さんから声を掛けられる。



｢ なぁ、A？ ｣


『 何？、』



その綺麗な顔が憎たらしい、とか。柄にも無い事を思い立って連れない表情で顔を見た。馬鹿らしくも端正な顔立ちが非常に苛立つ、然しして彼は私に取って大切な兄だから。他の兄達は自分の兄とも思いたくない程に、なんて阿呆らしいのだと心の底から思う。隣に居る直哉兄さんの事は嫌いと言ってるけど、実を言えば家系の中では一番信用している。胡散臭い笑みだって私からすると大切だし、掛け替えの無い兄。



｢ A的には、真希ちゃんと真依ちゃん、どっちの方が良いと思う？ ｣


『 どっちも嫌だってば。次期当主に選ばれるべき人間なんて直哉兄さんしかいないでしょ、何誰にでも分かり切った事訊いてんの。』



御免なさい、真希ちゃんと真依ちゃん。二人の事が嫌とか思ってもいないのに、兄さんに嫌われたくないから私は平然と嘘を吐く。ほら、私は偽って生きていくしか無いから。結局は私に残っているのは兄さんだけ、直哉兄さんだけ。



｢ 矢っ張りAもそう思うよなぁ、望む通りに俺が当主に絶対なったるから。そうしたらAは俺の隣にずっと居てくれや。何処かに勝手に逃げたら許さひんからな？ ｣



言われなくてもそうする心算。ぎゅ、と兄の服の裾を軽く掴めば頷いてみせた。なんて最低なのに好い人なんだろうか。こんな優しくて好い兄を持てて私は本当に幸せ者みたいだな。



『 逃げないよ、もう。直哉兄さんから逃げるだなんて意味分かんない、ずっと傍に居てあげるって少し前に約束したばかりじゃん。』



余りにも嬉しくてそっぽ向き、上がる口角を何とか抑える為に直哉兄さんの手を握る。体温を持った柔らかな掌、それでも男性らしく骨張っていて逞しくて。他の誰でも無く、私はきっと結婚もせずに一生傍に居るだろう。若し、兄さんを殺そうとでもする輩が現れたとしたら、私はその人を迷い無く殺して仕舞う筈。

そんな事を思いながら、部屋に入った。
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