光芒 II (ページ16)

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「どうしようか…」
「何が？」
「え、あー、なんでもない」
「なんだそれ」

考えすぎて口に出てしまっていた意味深な独り言を、冷えた水を流し込んで誤魔化した。目の前には、たった今置かれた湯気が立つラーメン。樹くんは、カウンターから出て、来店したお客さんを案内している。

偶然を装って北斗くんに会える場所はどこかと思案して、思いついたのがこの店だった。だから仕事帰りに寄ったけれど、残念ながら北斗くんは居なかった。会えたのは「最近ほぼ毎日シフト入れてんの！金貯めたくてさ！」と言う樹くんだけだった。

「ビール飲まないの？」

店内の動きが落ち着いてカウンターに戻ってきた樹くんが、不思議そうな顔をする。

「今日はいいかな」
「じゃあ代わりに俺飲もっかなぁー」
「樹くんは仕事中でしょ？」
「ビールイッキ飲みしたい気分なんですー」

今日はいつもより食器を机に置く時の音が大きいな、とは思っていた。まるで何かにイラついているようだな、と。それを分かって欲しそうなくらいあからさまに態度に出しているな、とも思っていた。

「どうしたの。むしゃくしゃしてるの」
「そう！マジで腹立つことあってさー」

だから、ふと触れてみると「よくぞ聞いてくれました！」とでも言うように前屈みになった樹くんがちょっとだけ面白かった。

「なに？」
「大学の友達と喧嘩したの」
「喧嘩？」
「だってさ、唐揚げに勝手にレモンかけんだよ？マジありえない」

樹くんは「俺はレモンかけない派なのに」と不満そうに溢す。昨日、大学の友達と飲みに行ったが、それがきっかけで口喧嘩になって、結局そのまま別れたらしい。まるでたった今湧いた感情のように、昨日の怒りがまだ新鮮なままなのが凄い。いや、それよりも、

「えっそれで喧嘩？」

あまりに些細な喧嘩の種に、拍子抜けしてしまった。

「ちっせーことで喧嘩してんなって思ったでしょ」
「いや、……うん。ちょっと我慢すれば、」

収まらない？と言おうとしてやめた。これがきっと、今朝夏帆にも言われたような私の悪いところなのだ。