先手を打たれた 二 ページ7
「これで三度目だね」
太宰の呆れた様な声を聞いて、森も肩を落とした。目の前の被害者達は、居心地が悪そうに肩を縮ませる。
「にしても、相手は記憶を操作する類の異能なんでしょ? 如何して武器まで置いて来ちゃうかなぁ。これじゃあ相手に武力を提供するために擂鉢街へ赴いているのと変わらないよ。ね、森さん」
太宰の辛辣な言葉に、黒服呑みならず、森までも申し訳なさそうな顔をする。とてもポートマフィアの首領だとは思えない表情に、太宰はため息を吐いた。
其処で、「あ、」何かを思い出したかの様に黒服の一人が呟いた。
「如何したかね?」
先程の頼りない顔とは一変、真剣な表情の森が問いただす。
「い、云われたんです。『此処に武器を置いて行け』と。其の言葉を聞いたら、体が何故だか勝手に動いて……」
「相手の顔は?」
「も、申し訳ありません。思い出せたのはそれだけで……」
辿々しくも、男は何とか言葉を紡いだ。
森と太宰は顔を見合わせる。
「成程、記憶を操作する異能ではなく、云った言葉に強制的に従わせる異能──かな? 其れならば、記憶を忘れろと云われれば忘れるだろうし」
「如何するの。思ってた以上に厄介な相手だよ」
太宰の言葉に、森は笑みを浮かべた。
「其の子、うちにいたら便利だろうなぁ。随分と使い勝手の佳い異能を持ってるみたいだし」
まるで子供の様に云ってのける森に、太宰は面倒事が起こりそうな予感がした。
*
実際、太宰の予感は正しかった。
《羊の王》と呼ばれる中也と合同任務を仰せつかった後に、太宰だけが森に呼ばれた。
そして、例の異能力者の情報収集とポートマフィアへの勧誘を命じられたのだ。
*
電子遊戯場から出た太宰は、遠くの方でぼんやりとしている中也を他所に森に再び電話を掛ける。
「もしもし、森さん? 例の異能力者の事だけど、名前が判ったよ。でももう駄目だね。こうなる事を予感してか、相手はもう《羊》を抜けてるし、構成員の頭から自分に関する記憶を消してる。中也君にも軽く話を聞いてみたけど、男か女かすらも覚えてない。名前だけが判った所で偽名を使って生活をしてる可能性もあるから、容姿が一切判らなければ探しようがない。──やられたね、もう如何しようも無い。ポートマフィアへの勧誘は諦めた方が──名前? あぁ、其奴の名前は」
太宰は其処で一度言葉を止めてから再び口を開く。
「『マキマ』、だ」
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はたりり(プロフ) - 面白くてここまで一気に読んじゃいました!!続きってありますか?楽しく待ってます! (12月5日 20時) (レス) @page12 id: 08a8bb82bf (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - 猫さん» コメント有難う御座います! 長い間更新できないでいて本当に申し訳ないです。 (2023年4月10日 22時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 続き待ってました!!!更新ありがとうございます!!応援してます! (2023年3月20日 7時) (レス) @page12 id: 846f3d2d4a (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - て (2023年2月24日 3時) (レス) id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - あ (2023年2月24日 2時) (レス) @page11 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:息抜き | 作成日時:2022年11月13日 6時