先手を打たれた 一 ページ6
「太宰君、少し佳いかね?」
太宰が擂鉢街に調査に行く随分と前の事。ポートマフィアの新たな首領、森に呼ばれた太宰は、其のあどけない顔をキョトンとさせた。
「君の異能の力を借りたくてね」
まーたこき使われる訳だ。
太宰は「うへぇ」と判りやすく顔を顰めた。「そんなに嫌そうな顔をしなくても……」と云いつつ歩き始めたの森の後ろを、彼は渋々着いて行った。
*
部屋には十数人の男達がいた。全員がソファーに座って何処か所在なさげにキョロキョロと辺りを見渡していたが、森が部屋に入ったのを確認すると背筋を伸ばして座り直した。
「……この人達は何か粗相をしでかしたの? 其の割には悪い扱いを受けていない様だけど」
「うーん、やらかしたと云えばやらかしたし、不可抗力だったと云えば不可抗力でもある様な……」
いまいちハッキリとしない森の返答に、太宰は再び顔を顰めた。其れを苦笑いしながら見ていた森は、やがて事の顛末を説明し始めた。
曰く、彼等は二日前に擂鉢街にいる《羊》と云う組織を制圧しに向かった部隊らしい。
しかし昨日、所持していた筈の武器を持たずに帰ってきた事。
同僚達に、「制圧任務はどうしたんだ。疾く報告書を書け」と言われても、何のことだか判らないと云う様に首を傾げたこと。
おかしいと思って詳しく話を聞いても、自分達が何をしに擂鉢街へ向かったのかすら彼等は記憶していなかった。
以上のことから、全員が一部の記憶障害を起こしていると判断された訳だが……。
「成程、一度に十数人全員が制圧任務の内容だけを綺麗に忘れる訳がない。だから《羊》の構成員である誰かの異能では、と云う話だね」
まあ、一つ確かなのは例の《羊の王》の仕業ではないね。
太宰は其の頭脳で素早く状況を理解すると、近くに座っている黒服へ手を伸ばし、触れた。
「どうだい? 何かを思い出したかな?」
森の問いかけに、男は否定した。
「異能力者本人を叩かないと駄目なのかもね」
「どうやらそうらしい。全く、彼等も面倒な相手を仲間に引き入れたものだ」
森は太宰に言葉を返すと、黒服達を解放した。
*
あれから頻度は高くないにしろ、《羊》を制圧しに向かった部隊全員が所持していた武器を持たずに帰還、何故擂鉢街に赴いていたのかを忘れる、と云った事態が二度起きた。
当時の森の状況からすれば、《羊の王》に部隊を全滅させられなかっただけましだったが、この状況も十分に厄介だった。
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はたりり(プロフ) - 面白くてここまで一気に読んじゃいました!!続きってありますか?楽しく待ってます! (12月5日 20時) (レス) @page12 id: 08a8bb82bf (このIDを非表示/違反報告)
息抜き(プロフ) - 猫さん» コメント有難う御座います! 長い間更新できないでいて本当に申し訳ないです。 (2023年4月10日 22時) (レス) id: aff75be4a1 (このIDを非表示/違反報告)
猫(プロフ) - 続き待ってました!!!更新ありがとうございます!!応援してます! (2023年3月20日 7時) (レス) @page12 id: 846f3d2d4a (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - て (2023年2月24日 3時) (レス) id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
琉亜 - あ (2023年2月24日 2時) (レス) @page11 id: 5309fc8273 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:息抜き | 作成日時:2022年11月13日 6時