声だけじゃもったいない

【６】 ページ7

(貴女side)




今ぶつかった人…どこかでみたことが…？声も…

ま、いいや。1日何人もの人を見ているんだ、どこかで見たことがあってもおかしくない。こんな狭い東京なんだから尚更。



地元の風景が恋しい。私が住んでいたところは住宅街だったけどすこし歩けば田んぼが広がって…独りだったわたしは、その田んぼのなかにある小さいおうちのおばあさんの所に入り浸っていた。彼女だけが私を受け入れてくれたから。
おばあさんが出してくれるちいさいお煎餅を、ふたりで食べるのが好きだった。

そのおばあさんも、今はもう亡くなってしまったけど。

地元の風景は恋しいけど、家に戻りたいとは思わない。戻ったって居場所がないのはわかりきっているし。






A「なに、たべよっかな…」







鞄のなかには封筒に入った１万円札が5枚。アニメ主題歌に抜擢していただいた曲が、ダウンロード数4週連続1位をいただけたそうで、そのボーナスだった。

CDがたくさん売れたときとか、こういう「記録」を出せたとき。会社はわたしに5万円をくれる。普段の手取りが月12万のわたしにとって、それはもうありがたいお金だ。

使い道は決まっている。
１万円は美味しいものを食べる。
１万円はお洋服を買う。
残りの１万円は、生活費へ。

このお金を頂いたときしか服は買えないから…お値打ちなお店でなるべく枚数を買う。あと下着も。
次いつこの5万円がいただけるかなんかわからないから。






A「家賃が安いのがありがたいよな…」






ワンルーム家賃６万円。ありがたい。６万円残ればなんとかなる。食費を１万円ちょっとに抑えられれば、だいぶ頑張れる。
一応健康保険とか厚生年金とかそういうのは会社で入れて貰えてるし。ありがたい。






A「…あ、はんばーぐ」






ちょっといいステーキやさんの外の看板に書かれている、期間限定メニューのハンバーグ。
ハンバーグは大好物だ。ご飯とサラダとドリンクがセットで2,300円…普段なら絶対頼まないけど、今日は。






A「はんばーぐ、たべよ」







今日だけは、いいよね。
意を決して、お店のドアを開けた。

瞬間、おいしそうな匂い。だめだ、ヨダレがでる。こんな顔の女がヨダレ垂らしていたら通報されかねない。

案内していただいた席に座り、ハンバーグランチを注文し。
大好きだけどこんなときしか飲めないカルピスを取りに行く。




ああ、おいしい。

幸せだ。

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