Episode11 -4 ページ30
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どうして昨日の夜のうちに、無理を言って翔から話を聞かなかったんだろう。
あるいはマンションに着くまでに、後でなんて言わずに今すぐ教えてって言えばよかったんだろうか。
どうすれば翔は、相葉さんのもとを去らずに済んだんだろうか。
「ごめん、話がずいぶんそれちゃったね」
相葉さんのカラリした声にあわてて涙を引っ込める。
この人の前で私が泣いてはいけないと思った。
「俺はね、昨日君が怖いと思う気持ちがわからないって言ったけど。君と翔ちゃんにとって何が一番いいことなのかは、わかったつもりだよ」
翔のことを話す相葉さんは優しい顔をしている。
その表情が何よりも相葉さんの言葉に温度を乗せているようだった。
「沈黙は肯定と受け取りますって翔ちゃんにも言ったって言ったでしょ？」
「はい」
彼女は翔ちゃんを探すと思うよ？止めなくていいの？
そんな問いかけに翔は何も答えなかったんだと相葉さんは言った。
「だからね、沈黙は肯定と受け取りますって言っといたんだけど、俺ってば正解だったじゃん」
ケラケラ笑って、薄い唇をまた湿らす様に引き結ぶと、少しの沈黙。
「ねぇ、瀬那さん。俺と取引しよう」
「取引？」
「そう。俺は翔ちゃんが瀬那さんの記憶から自分を消した理由を教える。その代わり」
「その代わり…？」
「瀬那さんは、翔ちゃんが行きそうな場所を考え付くだけ教えて」
相葉さんの瞳は、至極真剣だった。
あぁやっぱり、私は相葉雅紀という人を誤解していた。
私と相葉さんは違うんだ。
違うから、手を伸ばさなければいけないんだ。
契約書もなにもない。
けれど私が頷いたその瞬間、私と相葉さんの取引は成立した。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年2月6日 21時
