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しばらくの無音の空間は長年一緒にいるメンバーでさえ少々不快に感じ、自身の焦りを自認させられた。
閉ざされた薮くんの口からは俺たちの気分を上げるような言葉が出てくることはない。
これでもう、医師から聞いたことの全ては俺たちに伝え終わったのであろう。
その事実がまた俺たちの心を深く沈めた。
誰も敗れぬ沈黙に耐えかね再度席を立つ。
数人からの視線が痛かった。
「ちょっといのちゃんの方行くけど誰か一緒にくる人いる?」
自分から出たのは普段の明るい声ではなくどんよりとした頼りない声であった。
俺の言葉に少し顔を見合わせたメンバー一同。
悩んでいることは明白であったが根気強く待つ。
カタっと音を鳴らして椅子から立ち上がったのは高木でほんのりと俺に笑いかけてきた。
「俺も行くわ。ついていっていい?」
勿論。とだけ短い会話を済ませる。
他の面々はここで待つ事にしたらしく座ったまま俺たちを視線で見送った。
俺よりも幾分高いその背丈と共に本日4回目のエレベーターに乗り込む。
今までと違ったのはそれに乗っている間に苛立ちを覚えなかったこと。
その感情よりも尚のこと悲しみの方が深かった。
溢れかけた俺の涙を遮るように俺の体が抱擁された。
優しく温かい彼の腕の中で悲しみが少し解けたような気がした。
今日はやけに人肌を感じるな、なんて思えるくらいにはゆとりを持てたと思う。
無言の抱擁が終わったのはエレベーターのドアが開いた時。
どちらからと言わずに終わった。
優しい彼の袖を軽く引っ張って感謝を伝えれば驚いた表情をしたのちに笑顔がこぼされた。
真っ白な廊下を歩き部屋番号を確認して中に入る。
初めに来た時は降っていた雨が止んで綺麗な月が雲から覗いているのが窓を通して分かった。
そういえば山田の部屋はカーテンが閉められ電気がついていたな、なんて感想を抱きベットの方に視線を移した途端に俺は言葉を失った。
「病室に入ってきてんのに挨拶なしとは失礼じゃない?」
ベットから少しだけ体を起こし月明かりに照らされた彼がこっちを見据えそういった。
月明かり以外にここに光はなかったがきっと微笑んでいるのだろう。
こんな状況だというのに第一声がこれなのは彼らしいというべきなのだろうか。
相変わらずテキトーで俺たちの予想を悉く裏切ってくる彼からのちょっとしたサプライズのように思えた。
悲惨な情報しか入ってこなかった今日、初めての喜ばしい報告がこれなのはどうかしていると思う。
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米山瑞稀(プロフ) - なにわ男子 (3月26日 20時) (レス) id: a504ed4635 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠璃 | 作成日時:2024年2月14日 20時