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ある日の収録終わり、俺はどうしても確認したいことがあって“伊野尾ちゃん”を呼び止めた。
「ねぇ、“伊野尾ちゃん”。ちょっと話したいことあるんだけど。」
「俺、早く帰りたいから今度でいい?」
「その今度っていつ」
「今度は今度。」
俺の声に止まりはしてくれたもののテキトーすぎる発言で俺との距離を置こうとする彼。
前に目の前で頭痛が出てしまったことをまだ引きずってくれているのだろう。俺が変に痛い思いをしないように。
またスタスタと歩を進める彼。
「なぁ、俺のどこがそんなに嫌なんだよ!!!」
ドアに手をかけ中に入ろうとした時、自分でも思っても見なかった声が轟く。
びくり、と彼の肩が震えた。
「俺のどこがそんなに嫌いなんだよ」
ギリギリ溢れたのはそんな言葉でされどどこからか湧き上がった怒りは込められていた。
普段ならこんなこと言わなかっただろう。
しかし、この日はどうにも違い、俺がどこかモヤモヤとした感情を抱えていた。
そして、彼からの扱いが存外おかしかったのだ。
少し前に気がついた俺が彼から避けられている理由。
それはどう考えても俺が悪いのだがどうしても今日ばかりはそうじゃない気がして、そう思ったら感情を制御できず、ついに俺から怒声が漏れてしまったのだ。
わかってはいる。自分が避けられている理由なんて。今の俺の怒声が半ば八つ当たりであることくらい。
されど、俺はどうにも抑え切ることができなかった。結果、“伊野尾ちゃん”の表情をあからさまに歪めてしまったのだ。
「何とか言えよ」
「・・・。ごめん。」
「あんたのせいで俺は頭打ったんだろ!?」
バタン。
どこかのドアが閉まった。
俺の視界内に動いたドアなんて存在してなかったのに。
目を見開いてはくはくと口を動かしたのちに俺の問いかけ一つで目の前の彼の態勢が変わった。
ごめん、とだけ声をこぼした彼の瞳に俺は映っていたのだろうか。
常に保たれていたやんわりとした笑顔がこの瞬間に潰え、代わりに向けられたのは酷く冷えた瞳だった。
俺を押し出すようにして部屋を去りバタン、と大きな音を立てて戸を閉めた彼を見て初めて言ってはいけないことをしてしまったのだと気がついた。
それに今更気づいても後の祭り。
一人ポツンと取り残される。
“伊野尾ちゃん”を呼び止めたのは他のメンバーが帰った後。
ここにもう誰一人として戻ってこない。
そんな空間で俺は一人ズルリと崩れ落ちた。
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米山瑞稀(プロフ) - なにわ男子 (3月26日 20時) (レス) id: a504ed4635 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠璃 | 作成日時:2024年2月14日 20時