話の続きはまた今度 (ページ3)

今日:68 hit、昨日:72 hit、合計:14,871 hit

3 ページ3

ar

仕事の只中、その電話は急に俺の元へと繋がれた。
決して穏やかと言えない天気の中、なんだか嫌な予感がするな、と思って出かけた今日の朝。
きっとそんな事は起きないだろう、と呑気に考えていた自分を猛烈に呪いたくなった。

唐突にその存在を主張した俺のポケットの中の電子機器は予期せぬ人からの通話を俺に知らせてきた。
滅多にかけてこないその人からの電話に驚きながらもでて向こうの焦りを察知し身を強張らせたのは数分前。
何やら尋常じゃないほどの声音で紡がれた言葉の先の現実を受け止めきれなかったのがついさっき。
今はその事実確認のために俺はマネに車を回してもらい病院へと向かっていた。

幸いなことに俺の仕事は多少の空き時間があり、少しの間抜けていても何も問題なかったのだ。

薮くんから、『伊野尾と山田が病院に緊急搬送された』と聞いた時自分は驚くほどに動揺していた。
その時の薮くんの声音を思い出せないくらいには。

いのちゃんのようにあまり嘘をつく人ではない。
無論、いのちゃんであっても彼は人を傷つけるような嘘はつかない。その場のノリとかでなら誤って出てしまうかもしれないが彼はそんな人でなしではない。

そんな事は頭の中で嫌という程理解し、知っていると言うのに今回ばかりはそれすらをも疑った。
疑いたかった。
誰だって自分の大切な人が病院に運ばれたと聞けば嫌な妄想ばかり広げてしまう。
それを拭うために変に考えを回すことがあったっていいじゃないか。

それがたとえ一時の気の紛らわしである事は明白であるが、それをわかっていてなお、薮くんのついた嘘であることを願わずにはいられなかった。

結論から言うと、やはり薮くんは嘘などついていなかった。
当たり前のことであるがそれはどうしても俺にとっては認めたくなかった。

緊急搬送されたいのちゃんと山田の詳しい容態はまだ薮くんも知らないらしく、俺の目の前で光り続ける『手術中』の三文字が俺を焦らしていた。

この部屋の先にいるのはいのちゃんの方で、何やら大型トラックに轢かれたらしい。
今日はあいにくの雨。そんな中で二人は外ロケをしていたのだからそのせいかもしれない。

山田の方は軽傷で引かれたりはしなかったのだが少々強めの衝撃を頭に受けている可能性があるらしく病室で眠っているらしい。

それが薮くんから聞いた俺の情報の全てであった。