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今日から復帰する山田の初仕事は体を張るような体力を用いるそれではなくて、メンバー全員での至って緩やかな撮影であった。
事務所の方から、いのちゃんが骨折し、しばしの間公衆の面前には立たないことが発表されており今回の撮影に彼は参加していなくてもファンの子達ならわかってくれるだろう。
いつもなら時間にルーズだと言われる俺もこの日ばかりは不安からか集合時刻よりもなお早く楽屋についていた。
「げ、大ちゃんいるじゃん。もしかして俺遅刻?」
「俺イコール遅刻に結びつけんなよ」
「でもなんか大ちゃんいると俺遅刻した感すごいじゃん。」
なんとも不名誉な称号を山田からいただいたところでドア付近からこちらに移動し、俺たちの輪の中に入ってくる。
少し話した感じはやはり前の山田と遜色なくて、事故なんてまるでなかったかのようだった。
滞りなく進んでいく撮影。
ヒカの耳の時もそうだが、一人足りないだけで拭えない違和感がそこにある。
それを微かに受け入れている自分も自分で嫌だった。
終わり際、まるで確かめるように俺は山田に話しかけた。
「ねぇ、山田。本当にいのちゃんのこと覚えてないの?」
「だから、何度も言ってるじゃん。その、イノチャン?って誰よ」
帰る言葉はいつも同じ。
もう何度聞いたかわからない回答が俺に届く。
山田の表情はいつだって真面目で、そこに偽りなんてなかった。
訝しげに俺を見つめてくるもんだから無意識的に「ごめん」と呟いていた。
皮肉な話だと思う。
事故に遭って、助けてもらって。命は互いに無事だったが、助けられた方がそのことを忘れてしまっている。事故だけを忘れるならどれほど良かったことか。
マネの車に乗り込み帰路についた山田を見送り無性に泣きたくなった。
最近の俺は泣いてばかりである。
歳故の涙脆さなのか、関係ないのか。
おそらくは後者であろうが仮にもジャンプの元気印だと謳われる俺である。
泣いてばかりでもいられない。
この滴が落ちないように。
そんな意味も込めて見上げた空。
終了した時間は早かったこともあり太陽が辺りを真っ赤に染め上げているところが見えた。
いつの時代でも空は綺麗で、えも言われぬような美しさがある。
もう数分経てばこの世界は星々の世界に移り変わる。
一瞬見えた流れ星のようなそれはまるで誰かの涙のように見えた。
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米山瑞稀(プロフ) - なにわ男子 (3月26日 20時) (レス) id: a504ed4635 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:悠璃 | 作成日時:2024年2月14日 20時