【東海】Deep Down (ページ38)

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青ルート１１ページ38

「ありえない…」
「お客さんが目的地言わないからですよ？」
「タクシーごっこしなくていいから！もう降りる！」

りょうくんをにらむ。

「どうするの？こっから歩いて駅行くの？」
「そうだよ、電車で帰るの！」
「こんな大雨の中？傘もささずに？」
「う…」
「この寒さの中で雨に打たれたら確実に風邪ひくよなあ」

意地悪な顔でりょうくんが言う。
こうなることを見越していたのかこの策士…！

完全に手のひらで踊らされている。
悔しい。
でも、思い通りにはなってやんない。

「別にいいよ、歩く。濡れてもいい。あと私身体丈夫だからめったに風邪なんてひかないし」

りょうくんが、こいつ本気？みたいな怪訝な視線を寄こす。
負けじと目を見つめる。

「…はあ、わかったよ。そんなことさせられるわけないじゃん。傘取りにおいで」

だからため息をつきたいのは私のほうだってば。
でも、初めてりょうくんを説得できた気がする。
なんかいい気分。

部屋の前に着いて、りょうくんがガチャリとドアを開ける。
玄関に踏み込むのは気が引けて、ドアが閉じきらないように少し引っ張っておく。

「あ、あったあった。これとこれ、どっちがいい？」

差し出された右手には真っ黒な傘、左手には紺色の傘。
正直濡れなければなんだっていい。
とは言えない。
適当に黒い傘へと手を伸ばす。

「じゃあ、こっち…でっ！？」
「はい、引っかかった」

傘を掴んだはずの手は空を切る。

それは一瞬だった。
りょうくんが、かたんと床に傘を落として。
かわりに、空いた右手で私の手首をぐっと掴んだ。

驚く間もなく、そのまま勢いよく引き寄せられて。
かき抱かれるように家の中へと引き込まれる。

「…ちょっと、どういうつもり？」
「こうでもしんと、家来てくれんなあと思って」

悪びれもなく言い放たれる。
くるりと後ろに回られて、りょうくんが後ろ手で鍵を閉めた。

「やだ、帰る！」
「帰ってきたじゃん、俺ん家に」
「私の家に帰るの！」

私の意見なんておかまいなしに、ひょいと横抱きにされる。

「ねえ！降ろしてよ！」

これは本格的にやばい。
靴をぽいっと脱がされて、玄関から一番近い部屋に連れ込まれる。

ぼふっと音がして、体が跳ねる。
ベッドに降ろされたんだと理解する。

「Aさ、変だと思わんかった？」
「…変？」
「駅までの暗い夜道をさ、俺がAひとりで歩かせるわけないじゃん。車で送り届けるに決まってるでしょ？」

勝ち誇ったように、りょうくんが笑った。