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青ルート10 ページ37

帰り道。
あたりはもう真っ暗。

背もたれに身を任せていると、ぽつ、とフロントガラスに水滴が落ちた。

「うわ、雨だ…」

昼間の天気予報を思い出す。

「ほんとだ、結構降ってきたね」

雨が屋根に打ちつける。
しばらくして、目の前の信号が赤色に変わり、ゆっくりと車が停止する。

「ねえ、A」

ふいに名前を呼ばれて、顔を上げる。
思ったよりも近くにりょうくんの顔があって、少しびっくりする。

「あの、近い…」
「わざとだって言ったら?」
「…へ、」

頬に手が伸びてくる。
するするとなでられて、顎をくいっと掴まれる。

「なに、」
「んー?ふふ」

きれいだけど、あやしい笑顔。
真っ黒な瞳に吸い込まれそうになる。
雨音なんて、もう聞こえなくて。

衣擦れの音がして、徐々に距離が縮まる。
あと、数センチ。
そこでようやく、声を絞り出す。

「っあ、危ないからだめ!」

なんだそれ!
停車してるのに?

「それは…やだってこと?」
「………」

誰かのものになったりょうくんは、嫌。
小さく息を吐く音が聞こえた。
対向車のライトのせいで、表情は読み取れない。

後ろの車に、思いっきりクラクションを鳴らされる。
いつの間にか、信号は青色に変わっていて。

「あは、怒られちゃった」
「はは…」

りょうくんは、なにごともなかったかのように、ぱっと車を発進させた。
対する私は、愛想笑いで精一杯。

どうして。
なんでこんなことするの?
りょうくんの考えていることが、わからない。

それからは、お互いにずっと無言で。
あの行動の意味を言及する勇気も出ない。
ただぼーっと、流れゆく外のネオンを眺める。

…あれ?
ちょっと待って。
とんでもないことに気付く。

「ねえりょうくん?この道って…」
「なーに?」
「道!違うってば!」

私の家への道じゃない。
むしろ逆方向なのだ。
嫌な予感がする。

「俺さ、タクシードライバーじゃないんだけど。知らなかった?」

すらりと細い指をハンドルにかけたまま、ふふんって笑われる。
いや…待ってよ。

「ちょ、やだ、降ろして!」
「どしたの、今日はわがままだね?」

りょうくんの口元がくいっとあがる。
…はめられた。

「りょうくん、お願いだから…」
「ちょっと黙っててほしいな。運転に集中できないから」
「な、」

さすがにそれはなくない?
理由が雑すぎない?

当然のごとく私の申し出は跳ねのけられる。

私たちを乗せた車はなおも走り続け、あっという間にりょうくんの家の前で停まった。

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作者名:V | 作成日時:2018年10月29日 17時

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