【東海】Deep Down (ページ36)

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青ルート９ページ36

「ほら、靴履いて」
「………」
「ねーえ？俺Aに無視されるのが一番悲しいんだけど」

しらない。
私はもっと悲しいのに。

「今から行きたいなって思ってるお店、Aがだいすきなイチゴのタルトがうまいらしいよ」
「………へえ」

ああ！反応するなよ私のバカ！
くすくす笑われる。

で、今私はりょうくんの車の中にいる。
まあそうなるよね。

別に、イチゴのタルトに引っ張られたわけじゃないけどね！
家にずっと居座られるか、遅めのお茶をしてちゃっちゃと解散するか。
そりゃ後者でしょう。

助手席に乗り込む。
ほのかに残る香水の匂いに、少しげんなり。

とは言いつつも。

「おいひい……」
「そりゃよかった」

目の前のタルトに罪はないもの。
どうせ私は単純な女ですよ。

「やっぱ無理やりにでもA連れてきてよかった」

あ、無理やりだっていう自覚はあったんですね。

りょうくんが紅茶を飲む。
こくんと上下する喉がやけに色っぽくて、思わず手元のフォークに目を向ける。

喉でだめなの？喉だけで？
なんかもう、破壊力ばつぐん。

気持ちを落ち着かせるために、同じように紅茶を口に運べば。
じーっと見られる。

「…ん？」
「動いてる喉って色っぽい」
「ぶっ…！」

げほげほ！軽くむせる。
心読まれたかと思った…

「ごめんごめん、そんなに動揺すると思わんくて」

涼しげな顔。
絶対私で楽しんでる。

そして、時は満ちた。
いよいよ決戦(お会計)のとき。
今日こそは…

「ご来店ありがとうございましたー」

店員さんに見送られる。
…あれ？
もしかしてこれは…

「先払い…？」
「ほら、寒いし早く車戻ろ」

言葉を遮られ、ぐっと腕を引かれる。

途中で席を立ったときにお会計されないように、先にお手洗いを済ませておいたのに…
気付けよ私…

「半分払います…」
「いーの。幸せそうなAの笑顔見れただけで儲けもんだから」

相変わらず手強い。

これは、私のささやかな反抗心だ。
あなたには懐柔されないという意思表示。

ベストな返答はどれ？

「えーっと…毎回払わせてばっかで、もう次からごはん行きたくないなあとか思われたくないから、ね？」

…これ違うな。
絶対違う。

だってもう、りょうくんの目がきらきらしてるもん。

「…それってさあ。Aはこれからも俺とごはん行きたいって意味だと思っていいの？」

答える間も与えられないままに手を絡めとられ、りょうくんのポケットにねじ込まれる。
ああ。もう、なんでもいいや…