【東海】Deep Down (ページ19)

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緑ルート５ページ19

「ねぇ」
「……」
「聞いてる？」
「……」
「なんで無視…」

私の謎のカミングアウト以降、
ずーっと無言。
ずーっと眉間にしわを寄せたまま。
ずーっと考え込んでいる。

ツンデレの攻略って難しいよねー、なんて話で盛り上がることもなく。
愚痴やらのろけが再開されるわけでもなく。

私が代わりに泣いてやろうかな。

ただ、この空間が心地悪いわけではなくて。
むしろお酒の力も相まって、だんだんまぶたが重くなってくる。

…だめだ、顔洗ってこよ。
いくら向こうが失恋しかけとはいえ、彼女持ちの男の家で寝落ちするのはいかがなものか。
そう思って、立ち上がる。

「…おい」
「なに？」

呼び止められて、くるっと振り返る。

「…ちょっ、と！」

ぐっと腕を引かれて、ソファーへ逆戻り。
両肩を掴まれる。

「帰んの？」
「いや、帰んない、けど…」

それを聞いて、あからさまにほっとした顔をするとしみつ。
頬と言わず、耳まで真っ赤に染まっている。
もちろん…お酒のせいでだけど。

「…頼むからさ」
「なに？」
「いい加減俺に振り向けよ」
「え、」

一瞬。ほんの一瞬。
自分への言葉だと勘違いしてしまった。
私を見つめる目はすわっていて、かなり酔っているのだと理解する。

「としみつ、違うよ。私は、」

＂あの子じゃない＂

その言葉が声になることはなかった。
としみつの唇に、それは静かに飲み込まれていく。

「っ、やめて！」

必死で押し返して、声を上げる。
ハッとした後に、悔しそうな表情を浮かべるとしみつ。

「わり、」
「いいよ、謝んなくて」
「A…？」
「…眠いからちょっと顔洗ってくる」

足早に洗面所へと向かう。
謝罪なんて聞きたくない。
これは事故だ、そう突きつけられているようで。

触れるだけの、軽いキス。
なのに、私の唇は今も熱をもったまま。

洗面台に手をついて鏡を見る。
映るのは、まぎれもなくこの私。
顔も知らないあの子じゃない。

はあ、とうなだれると、視界の隅に脱ぎ捨てられたパーカーが目に入った。
拾い上げれば、案の定漂う甘い香り。
目頭が熱くなる。

でも、私は大人だから。
ぐっとこらえて、パーカーをネットに押し込む。

「ん…？」

ふと、指に当たった硬い感触。
なんだろう？
パーカーのポケットの中をまさぐる。

「……リップ？」

人気ブランドの、それ。
見た感じはまだ新品だ。

──は？口紅？今から？はぁー？会う前に買っとけよ…

あのときの、電話のやりとりが蘇る。

…つまり、これは。