【東海】Deep Down (ページ15)

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緑ルート１ページ15

今日の撮影は各自別撮りが必要な企画で、私はというと、朝から外で動画を撮っていた。

そしてそれもついさっき終え、無事てっちゃん家に帰宅。
ドアを開けると、すでに撮り終わったみんなの笑い声が聞こえてくる。

早くその輪に加わろうとして、思い出す。
このスニーカーすごく脱ぎづらいんだった！
デザインはかわいいんだけどなー。

靴紐に悪戦苦闘して、ようやく廊下を進む。

「…だからぁ、好きだっつっとるがや！」

突然、撮影部屋から聞こえてきた声。
…としみつ？
好き、その響きにびくっと立ち止まる。

「んなの、笑顔がかわいい…ところだよ」

ぎこちなさそうに、でも声のトーンは明らかに上がっている。

「あーもー、今から会うんやからそんとき好きなだけ言ってやるって。あいつらに聞かれたら面倒なんだよ」

一方的なその言葉だけでもわかる。
嫌でも、わかってしまう。
この電話の相手は、きっと。

「は？口紅？今から？はぁー？会う前に買っとけよ…」

心臓をひねり潰されたような、鋭い痛み。
ひゅ、と息が漏れる。

…彼女、いたんだ。
いつから？私の知ってる人？

「じゃあな」

ああ、早くリビングに戻らなきゃ。
なにも知らないふりしなきゃ。

なのに、足が石になったみたいに動かない。

…そりゃそうか。

私、たった今失恋したばかりだもんね。
まさかこんな形で終わりを迎えるとは。
驚きすぎると、涙は流れないみたい。

ガチャ、閉じきっていなかった扉が開く。

「あ…」
「っ、A、お前いつの間に…！」
「…今ちょうど帰ってきた、」

目を見開いてぎょっとするとしみつ。
本当に聞かれたくない会話だったんだとあらためて思い知る。

「お前…今の聞いた？」
「…今の？なんのこと？」
「とぼけんなよ、聞いただろ？」

低い声。
にらみつけられる。
電話の相手に向けていた優しさはもう、ない。

「ほ、本当に聞いてないから！なにも知らない！」

あまりの剣幕に、嘘をつき続けるほかに道はないのだと悟る。

「…あ、そ。絶対誰にも言うなよ」
「なにを…？」
「お前が聞いたこと全部だよ」

お互いが腹の探り合い。

「とりあえずメシ行ってくるから」
「…うん」

目の前をさっと通り過ぎて行く。
数秒後、リビングからまた騒がしい声が聞こえてきて、としみつが戻ってくる。

「…いってらっしゃい」
「…ん」

ろくに顔も上げずに、そのまま外へと出ていった。
私と、彼の香水の匂いだけをここに取り残して。

廊下にひとり、立ちすくむ。