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(四) 根と指先 ページ5

ねえきみ、呪いでしょ。突拍子もなく繰り出されたその問いに、彼女は、驚く様子も動揺する様子もなく、いつものようにこくりとうなずいて答えるのでした。彼は少々面食らいました。

 こんなにもすんなりと、おのれの正体を明かしてしまった彼女に、反対に彼のほうが驚き動揺したのです。けれどもすぐに口角をあげ、彼は訊きました。

「なんの呪いなの」

 彼女は、彼の目を見上げて、

「春の呪い」

 と言いました。

「春?」

「桜の樹の、呪い」

 いや、だから、と、そうして彼は口ごもりました。彼女の言うことが、あまりにも淡々としていた上、抽象的であったためです。彼は、具体的な説明を求めました。

「この桜の樹の下には、死体が眠っているの」

 彼女は次に、そう答えました。白くたわやかな手や指先で、その桜の土に浮き出た根の部分を撫でます。その所作に見とれながら、彼はへえ、とおだやかな調子でつぶやきました。

「こんなにも薄暗くて陽なんて当たらないのに、それにしてはこの桜、ずいぶん美しく咲くとは思わない? だから、この桜は、死体を養分にして咲いているんじゃないかしら、って」

 まるで、なんちゃって、と茶化すように彼女は言いました。しかしそれは、冗談にしては不気味であり、真実にしては現実味が薄いものでありました。

「本当なの?」

 彼が、問いました。

「さあ、知らないわ」

 彼女はそうして風に凪がすようにふっと横に視界を払い、二人はしばらく沈黙しました。

 ずっと日向に立っていた彼でしたが、あるときなにかをあきらめたようにして、彼女の隣に座りました。彼も、三角座りをしてみたりしました。ふと、天井に広がる桜色を見つめて、彼がつぶやきます。

「それにしては、本当に綺麗なものだね」

 それを聞いて、彼女は目を伏せてふー、と小さな吐息をこぼしました。

 もしも彼女に魂というものがあったとするならば、その魂の炎は、そのときゆらゆら、揺らめいていました。彼女は彼のたった一言に、動揺、していました。

(五) 指先と灰→←(三) 瓶と根



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うずのしゅげ(プロフ) - 凪疾さん» めちゃめちゃ嬉しいです…!! 読み進めたくなるなんてありがたいお言葉をいただいているのになかなか更新できずじまいで申し訳ないです。近々更新頑張りたいと思います! 絶対…!完結させます…!! (9月19日 10時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
凪疾 - とても面白くて、私の好みで、読み進めたくなるような作品だなと思いました。更新楽しみにしてます! (9月17日 19時) (レス) id: ad3483f622 (このIDを非表示/違反報告)
うずのしゅげ(プロフ) - とよさん» 返信遅れてしまって申しわけございません!!! 遅くなりましたが改めて、本当にありがとうございます!! 受験期は、とよ様のお言葉が心の支えでした!! このお話は、少しずつでも完結させるつもりなのでこれからもよろしくお願いいたします!!! (5月19日 22時) (レス) id: c82952eeb4 (このIDを非表示/違反報告)
とよ(プロフ) - コメント失礼します。更新お疲れ様です!いつも楽しく読ませていただいてます!受験頑張ってください!!!! (2023年2月12日 14時) (レス) @page13 id: d1624c287f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うずのしゅげ | 作成日時:2022年12月19日 22時

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