第三幕 壱 ページ11
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目が覚めたら、もう夕方だった。西の地平線は茜に染まっていて、東側はもう星がちらついている。
特に理由は無かったけれど、私はあの公園に向かった。相変わらず、橙に塗られたベンチ。
「君が、『柳田A君』か」
ぼんやりとした蜜柑色の意識を、突然、氷のように冷たい声が切り裂いた。
「……誰ですか?」
振り向くと、鳥打帽を被って遮光眼鏡を掛けた、肌の白い男の人が立っていた。何故だか恐ろしくなって、ベンチから立ち上がる。
「俺は……綾辻だ」
「……あや……つじ……?」
あやつじ。アヤツジ。綾辻? ――綾辻行人?
「……あ、あああ、あ……」
殺した。京極さんを殺した、殺人探偵。殺した。違う。私。私? 殺したのは。京極さんを殺したのは、――
――私?
「おい、どうした。A。おい――!」
気が付けば、私はその場に座り込んでいた。
綾辻行人が、私の肩を掴んで名を呼んでいる。けれど、何故だかそれすら、遠い世界のことのようだった。
「私が……私が、殺した……。知らない、お爺さん……。いや……そんな、私……いやああああああ!!」
耳元で、叫び声がする。言葉にならない言葉を、喉が痛いくらいに、叫んで叫んで、叫んで。
――A君。
絶叫の中聞こえた、懐かしい声。顔を上げると、綾辻行人の遥か後ろ。公園前の道路を挟んで、京極さんがいた。
「京極さんっ!」
躰が勝手に動いていた。走り出して、道路に飛び込んで、それから。
ぐしゃり。
自分の躰から、肉を潰したような、血が飛び散ったような音がした。
京極さんが、唖然として私を見ている。そんな彼は珍しくて、思わず笑ってしまった。涙が溢れてくる。
「……京……極……さ、ん。逢いた、かった……。京極さん……」
目を大きく見開いた京極さんの声が、鼓膜を劈く。
「A君!」
「……京極、夏彦さん……」
ずっと、好、き――でした――。
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ふらり火(プロフ) - あにもーさん» え、あ、ごめん! (2016年8月21日 21時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
あにもー - うん、そういうものだと思ってましたです。文がわかりにくくてごめんね (2016年8月21日 20時) (レス) id: 8d0782fc85 (このIDを非表示/違反報告)
ふらり火(プロフ) - あにもー@NL厨さん» いや、『七夕』の話の台詞やらなんやらを一寸変えるだけだよ? (2016年8月20日 23時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
あにもー@NL厨(プロフ) - おぉ!楽しみー! お盆だしね、会いたいよ!!!(誰) (2016年8月20日 21時) (レス) id: a66a974f2e (このIDを非表示/違反報告)
ふらり火(プロフ) - あにもー@NL厨さん» うん、出しちゃおう!( 織田作ね……何としてでも会わせたくて、やっちゃった← (2016年8月20日 17時) (携帯から) (レス) id: 358f9cd815 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ふらり火 | 作成日時:2016年7月20日 17時