弐 ページ2
初対面の人に、またその人の店を薦められるとは思わなかった。
「嫌だったかしら?」
「いやいや全然!てっきり、吉原特有の店に飛ばされるのかなぁって思ってたら、まさかこんなお茶屋さんだとは…」
日輪と晴太は声をあげて笑う。
手渡されたものを見ると、海のように爽やかな青色の着物。
「少しは清潔感のある服着なきゃ」
片目を閉じ、人差し指を立てる。
まず、身だしなみを整えるようにと日輪に言われ、
晴太に風呂場に案内された。
久しぶりの入浴という事もあり、気分が爽やかになった。
風呂から上がり、先程貰った着物に袖を通す。
新しい布の感覚が少しばかりくすぐったい。
日輪の元に戻ると煙管を咥えた凛々しい女が、日輪達と話していた。
「あっAちゃん、おかえり。
紹介するわ。この子は月詠。無愛想な子だけど仲良くしてあげてね」
「日輪。無愛想は余計じゃ。月詠でありんす。ここ吉原で百華頭を務めておる。主のことは日輪達から聞いた。宜しく頼む」
差し出された手を握り、軽く会釈する。
「それじゃあ月詠姐も来たことだし始めようよ!」
彼の言葉を皮切りに、Aは強引に座らされ、日輪は後ろに回って鋏を手にしていた。
「綺麗にしよっか」
「お願いします」
さらり、と髪が落ちる度に今迄の過ちや振り返りたくもない過去も落ちていくような感じがした。
(これで償えるとは思えないのだけど)
鋏が前髪に差し掛かった所で、日輪に声をかける。
「日輪さん、すみません…前髪は…右側だけそのままにして貰えますか?」
不思議そうな顔をする彼ら。
(本当はあまり見せたくないのだけど)
前髪を恐る恐る上げ、彼らに見せる。
少しだけ怖がるような素振りを見せた。
そんなことは前々からあったことなのだけど。
「私はこの通り、右目がありません。
理由はちょっと言えないんですけど、こんな痛々しい傷人前で出せないでしょう?」
乾いた笑いを零せば、月詠がAの前髪をぐしゃぐしゃと掻き乱し、隠してしまう。
「主…一人で抱えてきたのか、それを」
「え…?」
「よく頑張ったな」
少しだけ悲しそうな顔をして呟く。
日輪はそれを見て、前髪に触れようとはしなかった。
綺麗に分け、右目を隠すような髪型。
「これで店に立てるわよね?」
久しぶりに見えた外の光と、日輪達の優しさに涙が零れそうになりながらも縦に頷いた。
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Nattu(プロフ) - 麗羅さん» お返事遅くなって申し訳ございません。コメントありがとうございます*辰馬凄く好きなので自家発電にと書いていましたが、読んでいただけて幸いです。楽しみながら書きたいと思います*^^ (2021年2月20日 1時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
麗羅 - 辰馬の小説、少ないので嬉しかったです!面白くて、次が楽しみです!更新頑張って下さい! (2017年10月29日 16時) (レス) id: 9e2ac1505a (このIDを非表示/違反報告)
Nattu。(2代目)(プロフ) - れんりさん» れんりさん、はじめまして。コメントありがとうございます。とても嬉しいです…ゆっくりとではありますが更新していきますので、よろしくお願いします!! (2016年4月11日 22時) (レス) id: db806a29f6 (このIDを非表示/違反報告)
れんり(プロフ) - 凄く面白いです!!更新楽しみに待ってます…! (2016年4月10日 9時) (レス) id: 285e1a358c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2015年11月17日 23時