薄 明 時 雨【 原神 】

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　変わらず視線は鋭いものの、旅人は戦闘態勢をやめて手をかけていた片手剣をどこかへしまった。千岩軍に追われていたときはよく見ていなかったから気付かなかったが…異国の魔術のようなものであろう、きらきらと金色の粉を吐きながら片手剣が空気に溶けていく。パイモンといい旅人といい、やはり興味深い箇所がたくさんだ。




「ははっ、サンキューな、空騎士さん。君のモンドでの活躍は聞いたよ。だからさっきの儀式中、君のことを少し観察させてもらった」




　 彼がぱちんと指を鳴らすと、私の服の袖から何か黒い小さなモノがふよふよと漂いながら公子様に吊られているように出て行った。

　ふむ、元素で繋いだ軽めの盗聴器といったところか…
　糸電話と同じ理屈だ。この黒い物体で、水元素によって生成された糸を引っ張って音の振動を伝える。これなら“観察”の際にわざわざ視線で追わずとも、張り付いた元素力の気配を見つけ出せば民衆に埋もれた一行を見つけるのも簡単。どうやら溢れ出している元素力に私の邪眼の水元素を織り込んでいるらしく、私がコレに気が付かなかったのにも納得がいくだろう。まぁ…彼程の実力者ならば勝ち目など最初から無いに等しいのだが。

　おやおやさすが公子様、慣れた手腕が素晴らしい。
　心の中でそんな皮肉を流してイライラを収めていると、公子様はべっと舌を出して茶目っ気を醸(かも)し出すような、明らかな挑発を私に向けていた。
　…ここを飛び抜けてしまいたい本心を閉じ、私は緊張した表情を貼る「つ、まり…あなたなら無罪を証明できる、と？」




「そこが悩ましいところなんだよ。愚人衆(ファデュイ)はスネージナヤの使者、こんなに大きな事件に対して異国の使者(もの)の言葉は信じてもらえないだろうね」

「盗聴器(コレ)だって記録はできないガラクタだ、使った形跡はあっても証拠の一つにもならない」




　…でしょうね、とでも言っておこう。私とてこれくらいは計算できる。
　元素で繋いだ糸電話であるなら通話しかできないわけで、記し刻むことはできない。璃月人はただでさえ岩神への信頼、信仰が厚いというのに、こうまでその岩神に関わる出来事ともなれば璃月の問題として人々の間で登録される。故に、他国の人物の証言など聞くことすらされないのだ。それに、愚人衆(ファデュイ)の人間への七星からの信頼なんて紙より薄いもの。北国銀行の経営が許されたことが既に奇跡だ。

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