検索窓
今日:12 hit、昨日:35 hit、合計:318,516 hit

ページ5

 彼女に先導されて、やや傾斜の急な坂を上っていく。彼女は徒歩で、僕は自転車を引いて。


 後ろに彼女を乗せて二人乗りで進んで行ければ格好もついたのかも知れないが、流石にこの坂を自転車で登り切る元気は無く、そもそも二人乗り自体が色々と問題になってしまうのでやめた。世界が終わる日になっても道交法を気にするなんて馬鹿馬鹿しいだろうか。


 やがて辿り着いたのは高台にある公園だった。広々とした敷地の中に、ブランコや滑り台などの遊具が幾つか置いてある。


「Aが来たかったのって、ここ?」
「うん。あのね、こっちに展望台があるの」


 そう言って彼女が小走りに駆け出す。自転車をその辺に適当に置いて、彼女の後を追いかけた。すぐに目の前が開けてくる。柵で覆われたその場所からは街の様子が一望出来た。


「わあ……!」


 思わずほうと感嘆の息が漏れる。


「いい眺めだね」
「でしょ。晴れの日は富士山が見える事もあるんだよ」


 ふふんと何処か自慢げに胸を反らす彼女が、何とも愛らしい。


「ここね、夜になると街の明かりが凄く綺麗なの」
「へえ」
「……よしくんにも、いつか見せてあげたかったなぁ」
「…………」


 その言葉が既に過去形である事に気付いてしまうと、僕にはもう何も言えなかった。何故なら僕らの生きている内に夜が訪れる事は無いのだ。






 それから僕らはベンチに並んで座りながら、他愛もない話をした。出会った日の事、付き合い始めの頃の事、学校の友達の事、彼女の家のペットの事、昨日のクイズ大会で僕が優勝した事など、本当にいつも通りの会話だった。


 ふと、今は何時だろうかと思い、スマートフォンを取り出した。時間を確認した所でどうしようもないのかも知れないけれど。


「……うぇ」


 間抜けな声が出てしまった。隣から彼女がきょとんとした様子で覗き込んでくる。


「どうしたの?」
「いや、とうとう電波が駄目になったなって思って」


 画面左上に表示される電波状態は圏外になっていた。小惑星の衝突が迫っているのだ。磁場の狂いが生じてもおかしくはない。


「……本当に終わっちゃうんだね」


 ぽつり。雫が滴り落ちるように、彼女が小さく零した。

▼→←▼



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (470 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
526人がお気に入り
設定タグ:QuizKnock
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

この作品にコメントを書くにはログインが必要です   ログイン

奈都(プロフ) - さっちいさん» 名作第一位更新とのありがたいお言葉で恐縮です。一年半以上も前に書いた作品ではありますが、こうして新たに読んで頂けてとても嬉しいです! (2021年8月6日 23時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
さっちい(プロフ) - 私の中の名作第1位更新しました…すごく好きな作品です! (2021年7月29日 10時) (レス) id: ebeed9cbc6 (このIDを非表示/違反報告)
奈都(プロフ) - 清華さん» ありがとうございます。悲しい終わりではあるのかも知れませんが、それでも各二人にとっての幸せの形を描いたつもりでいます。泣いて頂けたら嬉しいな、と思いながら書いていたので本望です…! (2020年4月8日 22時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
清華(プロフ) - 一気に7人分をworld endを見ますた...心痛いですよ、めっちゃめちゃ泣きました、もうきついです(笑) (2020年4月1日 16時) (レス) id: 1c085b2c66 (このIDを非表示/違反報告)
Hërø(プロフ) - 奈都さん» 夢は大丈夫だったのですが時々それぞれのメンバーの最後を思い出してグッときてます笑 (2020年1月3日 1時) (レス) id: 7ab3904f14 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:奈都 | 作成日時:2019年12月9日 20時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。