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「あー……すみません。なんか俺が言わせたみたいになった」
「いや、あの、本当にそう思ってるので」


 その言葉が嘘ではないという事は、彼女の声色から充分に伝わってくる。いやはや参った。たったこれだけの事で、こんなにも浮かれた気分になってしまうなんて。


「俺も超楽しみっす。Aさんと飯食えるの楽しみに、一週間頑張ろうっと」


 その浮かれ気分のまま、今の気分を素直に伝えると、電波の向こう側で一瞬戸惑った気配を感じた。何か不味い事を言ってしまっただろうかと身構えると、


「……伊沢くん、人タラシってよく言われるでしょ」


 と、恥ずかしそうな声が聞こえた。


「言われないですよ」
「嘘だ〜」
「嘘じゃないって」


 あなたの方こそ言われるんじゃないですか? と言いたい気持ちを必死に抑える。何せ、翻弄されているのはこちらの方なのだから。






 それから程なくして通話が終了した。後ろ髪を引かれる思いだが仕方あるまい。と同時に、自分が今の数分のやり取りに執着していた事に気付き、そこに潜む意味を考える。


 通話を切るとすぐさま室内が静寂に包まれた。つい数秒前まで聞こえていたAさんの声が耳元に届かないだけで、世界がこんなにも静かだなんて。


「はー……」


 思っていたよりも彼女の存在が大きくなっていっているのを感じる。


 別にAさんと今すぐどうこうしたいという訳では無い。好意は抱いているけれど、それを恋愛に昇華させるにはまだ一手足りないと思う。


 ただ、Aさん、と下の名前で呼ぶ事に高揚感を覚える程度には、彼女の事が気になっているのも事実だ。でなければ、この忙しい時期にわざわざ食事に誘ったりしない。


 とりあえず、取り付けた約束をモチベーションにして、また今日から頑張るとしよう。QuizKnockにとって大事なこの時期、デートの約束が無くても勿論頑張っているけれど、それこそニンジンを目の前にぶら下げれば早く走れるものだ。


 さっきまで聞こえていた彼女の声を反芻して、得も言われぬ幸福感に包まれながら、テレビの電源をつけた。


 * * *
 

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奈都(プロフ) - Komiさん» コメントありがとうございます。トロイメライが出来上がってる二人の話なので、順番が逆になってしまうのですが、あの関係になるまでにこんな流れがあったんだな、という感じでお読み頂ければ幸いです。出来るだけマメに更新していくので是非今後もお願いします…! (2019年9月14日 16時) (レス) id: 1ea9b7d420 (このIDを非表示/違反報告)
Komi(プロフ) - 初めてコメントさせていただきます!トロイメライの頃からizwさんの2人が大好きで、始まりのストーリーが読めるのがとても嬉しいです^^毎日更新を楽しみに生活しています笑これからも応援しています!! (2019年9月14日 5時) (レス) id: 31bd00c83a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:奈都 | 作成日時:2019年8月11日 10時

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