九十七片 ページ6
「ヒッ...ボ、ボンゴレの犬が！」
涼やかな風が吹き抜けていくと同時、不快な声が響く。
少し気分を損ねた。
上がった口角を緩やかに下げていく。
思えば数カ月居たこのフランスの地ともさよならだ。
およそ10年前、赤ん坊に巧みに誘導されて、ボンゴレファミリーに一時関わった。
そのボンゴレの本拠地の隣国に研究のため滞在していた。
だから彼らは勘違いした。僕がボンゴレの守護者だと。
「ミルフィオーレ第11部隊、ヴィオラ隊...だっけ」
燻っていた僕の闘争心。
それを発散するのにちょうどいい群れ。
昔と比べれば堪え性があるとは思う。
それでもだいぶ待たされて、挙句に群れの一員とも間違えられて。少しくらいムカついたっていいだろう。
ミルフィオーレの黒い隊服を着た、死屍累々に話しかける。
「安心しなよ。君たちは有効活用されるから」
足元に倒れる一匹の指から雲のリングを抜き取る。
また別の一匹のところに行って、リングを取る。
これは雨か。いらないな。そのあたりに放り投げる。
「き、貴様っ、我らが隊長が黙っていると、おも、ぐ、ぎっ！？」
「息さえしてればいいらしいから、足も折っておこうか」
うつ伏せで僕を睨む雑魚一匹を蹴り飛ばし、地に落ちたところで向う脛を踏みぬく。
そんな体力残ってたならもう少し遊べたなと思うくらい、元気に悶絶する。
「それに、報告するならすればいい」
意味はないと思うけどね。
彼らが隊長とやらも、今頃「成り代わられて」いるんだろう。
僕にはあまり関係がないから、どうでもいいことだけど。
さて。そろそろ炎が切れるだろうか？
彼が入っていた匣を眺める。紫を基調とし、白い雲のような文様が四方に浮いている。
今回初めて戦闘で使ったけど、使い心地はとてもいい。
性能はもうわかりきっているから、通常の使用方法はいいとして、あとは研究通りにあれが使えるか。
「キュイィ...」
空中に浮く大きな球体は、懸命に声を上げながら縮小していく。
本来は小さな、20cmすら満たない小動物だ。
それが炎を注入することによりあれほどまでに「増殖」する。
本当に不思議で、興味深く...一刻も早くその原理を知る必要がある。
僕が匣を研究する理由は、単純だ。
この過ぎ去った10年で、数少ない変わらないもののため。
強いやつを這いつくばらせたい。
並盛の風紀を乱させない。
僕のやりたいことを、やりたいようにやる。
そして。
「哲。終わったよ。出国の準備をしておいて。僕は彼女を迎えに行く」
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作者名：雪兎(月兎) | 作成日時：2023年9月1日 21時
